[2025_03_13_05]欧州の太陽光発電、初めて石炭火力を上回る_2024年に最も成長率の高いエネルギー源に_ 大場淳一(日経クロステック2025年3月13日)
 
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欧州の太陽光発電、初めて石炭火力を上回る_2024年に最も成長率の高いエネルギー源に_ 大場淳一

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 太陽光と風力が石炭とガス火力を駆逐

 環境・エネルギー分野のシンクタンクである英Ember(エンバー)は1月23日、欧州の電力供給において太陽光発電が2024年に初めて石炭火力発電を上回ったと発表した。同シンクタンクが公開した調査報告書「European Electricity Report 2025」によるもの。
 同報告書では、欧州連合(EU)に加盟している全27カ国における2024年の電力の需要と供給を網羅した。特に、同地域における化石燃料からクリーンな電力へのエネルギー転換を理解するうえで有用としている。
 今回の調査報告書で最も重要な点として、「太陽光が石炭火力を上回った」ことに加え、「天然ガス火力が5年連続で減少」「2019年以降の風力と太陽光の増加によって590億ユーロ相当に上る化石燃料の輸入を回避」の3つをエンバーは挙げている。
 同シンクタンクのシニアアナリストで調査報告書の筆頭著者を務めたクリス・ロスロウ(Chris Rosslowe)博士は、「化石燃料はEUのエネルギーにおいて支配力を失いつつある。2019年に『欧州グリーンディール』政策が始まった時点では、EUのエネルギー転換がこれほど進むと考えていた人はほとんどいなかった。風力と太陽光は石炭を底辺にまで押し下げ、天然ガスの大幅で不可避な減退を余儀なくしつつある」と述べている。

 石炭火力に取って代わる太陽光発電

 太陽光は、EU域内で2024年に成長率が最も高かった電源である。
 設備容量の増加は過去最高を記録し、発電電力量は304TWhで前年比22%増となった。電源構成に占める比率は11%となり、石炭火力(269TWh、10%)を2024年に初めて上回った(図1)(関連記事1)。
 2019年にはEUで3位の主要な電源であった石炭火力は、2024年に6位にまで下落したことになる。この傾向はEUにおいて広範囲でみられ、石炭火力が底辺にまで下落しつつある一方で太陽光はEU域内のいずれの国でも成長しているという。
 その結果、EU域内では半分以上の14カ国で石炭火力が全廃、または電源構成に占める比率が5%以下となっている。
 太陽光の成長を持続させるためには、電力系統において蓄電池などの柔軟性やスマートな電化が必要になる、と同報告書では指摘している。

 ガス火力も5年連続で減少が継続

 欧州では電力需要がやや増加しているにもかかわらず、天然ガス火力発電が5年連続で減少している。このため、石炭火力の低減もあいまって2024年のEU域内電力セクターの温室効果ガス排出量は、ピークとなった2007年の半分以下にまで抑制された(図2)。
 このように、天然ガス火力のシェアが継続的に下落したことが、EU域内における天然ガス総消費量が過去5年間で20%減少したことに大きく影響している、と同報告書では指摘している。
 2024年に風力と太陽光の設備容量が増加していなければ、EU域内で電力を供給するために天然ガスの消費量は11%多かったであろうとの試算を調査報告書では示している。
 また、2019年以降に風力と太陽光の設備容量が増加していなければ、EUは天然ガス920億m3と石炭5500万tを実際より多く輸入し、その燃料コストは590億ユーロ(約9兆5600億円)になっていただろうとの見積りも同報告書は示している。内訳は天然ガスが530億ユーロ、石炭が60億ユーロである。
 EU域内ではスペインとドイツの両国でいずれも100億ユーロを超える化石燃料コストを、2019年以降の再エネへの転換によって回避できたことが分かる(図3)。

 EU域内で加速する脱石炭火力

 過去5年にわたって、EU域内で電源構成の16%を占めていた石炭火力は10%を切る水準にまで下落した。この期間にオーストリア、スウェーデン、ポルトガルが石炭を全廃している。
 2024年の時点では、EU域内の16カ国で電源構成の5%未満を石炭が占めるのみとなっており、その内10カ国では稼働中の石炭火力発電所は存在しない。
 今後5年間においても域内の11カ国が電源構成から石炭火力を段階的に全廃する意向を公式に表明している。その結果、2030年の時点で石炭火力を稼働している国はEU域内で7カ国だけとなり、残りの石炭火力101GWのうち少なくとも34GWが廃炉となる見込みだ(図4)(関連記事2)。

 エネ安全保障の課題、ウクライナ侵攻で顕在化

 ここまでEUにおける化石燃料から再エネへの転換が、温室効果ガス排出量の削減および燃料コストの回避という2つの主要な要因によって進められてきたことを述べてきた。
 一方、エンバーの調査報告書ではEUが再エネへの転換を推し進めるうえで欠くことのできない重要な観点をもう一つ指摘している。それは「エネルギー安全保障」である。

 欧州では従来、大陸の東側に地続きとなっているロシアからウクライナ経由でパイプラインを利用して輸入される天然ガスを燃料として調達してきた(図5)。

図5●ウクライナ西部で建設されているパイプライン
(出所:Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)

 ところが、ロシアによるウクライナ侵攻が2022年に勃発。国際的な政治問題として深刻化するなか、EUはロシアに対する経済制裁を課しており、その結果ロシアから欧州への天然ガス輸入が停止するという事態に陥っている。
 このような背景もあり、EUは再エネへの転換を急いでいる訳だ。しかし現時点では天然ガス火力が電源構成に占める比率が16%とまだ高いため、急場をしのぐために他の国から液化天然ガス(LNG)を輸入するといった対策を講じている。
 エンバーの調査報告書によると、EUで2019年に輸入量の22%であったLNGは2024年に38%まで増加しているという。欧州がLNGの輸入を増加させた結果、LNGの需給がひっ迫することになった格好だ。
 その影響は顕著であり、ドイツでは侵攻前に比べて天然ガスの輸入価格が一時は10倍近くまで急騰し、そのあおりを受けて電気料金も高騰したという。

 「対岸の火事」ではないLNGの需給ひっ迫

 LNGの需給ひっ迫は、もちろんEUだけの問題ではない。

 日本では、国内で消費する天然ガスのほとんどを海外から輸入するLNGで賄っている。EU域内のLNG輸入が急増した結果、国際市場でいわば「LNG争奪戦」が今後も続くとの見通しを「エネルギー白書」(2023年)は示していた。
 LNGの需給ひっ迫を受け、日本のLNG輸入コストも上昇した結果、2023年から2024年にかけて国内の電力大手各社は相次いで電気料金の値上げに踏み切った。
 エネルギー白書(2024年)によると、現在輸入LNGの約70%を火力発電で使用していることが分かる。この割合がすぐに変わる可能性は低い。
 しかし、EUと同様に日本でもLNGや石炭に大きく依存する電源構成を可及的速やかに再エネ主体へと転換していくことが必要だろう。

 大場淳一(おおば・じゅんいち)ジャーナリスト

 大学で電子工学を専攻後、外資系半導体メーカーに入社。DSPやASICの開発を担当し、北米本社での勤務を経て経営学修士号を取得。現地企業でEDA製品の企画やマーケティングに携わった後、帰国し技術サポート、事業コンサルティング、環境・エネルギー関連の技術・市場動向の調査や記事執筆(日経電子版、日経エネルギーNext等)、再エネ発電事業などに従事。2020年に独立。
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