[2025_10_25_06]高市政権の成立により具体化する 原潜導入計画という「核の軍事利用」への道 防衛力「抜本的強化」と原子力潜水艦導入構想の危険性 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2025年10月25日)
 
参照元
高市政権の成立により具体化する 原潜導入計画という「核の軍事利用」への道 防衛力「抜本的強化」と原子力潜水艦導入構想の危険性 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 04:00
 2025年9月19日、防衛省の有識者会議は「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議報告書」と題する文書を公表した。
 その中で注目すべきは、「VLS(垂直発射装置)搭載潜水艦の整備」と「次世代の動力の活用」が明記された点である。
 この「次世代動力」とは、実質的に小型原子炉による原子力推進艦、すなわち原潜を意味している。複数の関係者発言からも、この意図は隠しようがない。
 報告書はあたかも「技術的検討」と装っているが、実際には原潜導入への政策的地ならしにほかならない。日本の防衛政策の根幹を覆し、憲法・法律・国際規範のすべてに抵触する危険な内容である。
 さらに10月に発足した高市政権は、自民党と日本維新の会による連立政権として誕生した。両党が一貫して主張してきたのは「防衛力の質的強化」「抑止力の次元の違う強化」であり、事実上の「攻撃型軍拡」路線である。
 この政権の下で、「検討段階」とされてきた原潜構想は、いよいよ現実の政策課題として具体化し始めている。
 「防衛力の抜本的強化」とは、単なる装備更新ではない。日本を「核の軍事利用」へと踏み込ませる質的転換を意味する。
 戦後日本が築いてきた「非核・専守防衛・平和国家」という基盤を根底から破壊する動きであり、断じて看過できない。

 1 憲法9条と専守防衛の原則を蹂躙する

 報告書は「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を当然視し、潜水艦を「戦略的資産」として位置づけた。
 だが、長射程ミサイルを搭載可能な原潜は防衛装備ではなく、明白な「先制攻撃兵器」である。これは憲法9条が禁じる「武力による威嚇・行使」に該当する。
 1976年の防衛計画大綱(三木内閣)では、「他国に脅威を与える攻撃的兵器は保有しない」と明記され、「攻撃型空母」「ICBM」「長距離爆撃機」などを例示している。
 原潜はそのいずれにも匹敵する攻撃能力を持ち、しかも水中からの隠密攻撃を可能にする点で、より危険である。
 報告書の提言は、専守防衛という戦後防衛政策の根幹を踏みにじる憲法破壊行為である。

 2 原子力基本法・原子炉等規制法を無視した「違法」構想

 原子力基本法第2条は、「原子力の研究・開発および利用は平和の目的に限る」と定める。
 原潜の推進動力炉は、その目的が「軍事行動の遂行」である以上、明白にこの条文に反する。
 さらに、軍事用原子炉は「原子炉等規制法」の対象外とされ、安全審査・運転認可・事故報告義務など、民生炉に課せられる法的監督を一切受けない。
 防衛省は「安全は確保される」と繰り返すが、その根拠は皆無である。日本には軍用原子炉の運転実績がなく、技術者養成も制度も存在しない。
 横須賀や佐世保に原潜が配備されれば、事故時の放射能拡散リスクは甚大である。米原潜の事故(例・2006年の米原潜ヒューストンによる放射性物質漏出など)を見ても、軍事炉の危険性は立証済みである。
 しかも、防衛秘密保護を理由に情報開示が拒まれるため、住民も自治体も安全確認を行う手段がない。
 「国防」の名の下に、原子力法体系を実質的に空文化させる暴挙である。

 3 非核三原則とNPT体制を形骸化させる

 原潜導入には、高濃縮ウラン燃料の供与が不可欠である。
 米国や英国の原潜は、いずれも核兵器級(濃縮度93〜97%)のウラン235を使用しており、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の適用外に置かれている。
 オーストラリアのAUKUS協定をめぐり、IAEAは2023年に「原潜燃料供与がNPT体制の抜け道となる」と警告を発している。日本が同様の仕組みを導入すれば、NPTの信頼性は根底から揺らぐ。
 さらに、国産原潜を建造する場合でも、原子炉技術や燃料は米国依存を免れず、「核の主権」を他国に委ねることになる。
 結果として日本は、核兵器を保有しないまま「潜在的核保有国」と見なされ、今よりもはるかに厳しい立場に立たされる。
 被爆国日本が非核三原則の実質的放棄に踏み出すなら、道義的信頼は完全に失われ、東アジアの核軍拡競争を誘発するであろう。

 4 AUKUS型軍事連携による「従属型原潜導入」

 オーストラリアが米英と締結したAUKUS協定は、米国製の攻撃型原潜「バージニア級」を4〜5隻導入する計画である。
 米議会調査局(CRS, 2023年報告)によれば、1隻あたりのコストは約45億豪ドル(約4.5兆円)に達する。
 この高額な艦艇を日本が導入すれば、防衛予算は膨張し、経済基盤を圧迫する。
 加えて、燃料補給・保守整備・運用訓練などのすべてが米軍の統制下に置かれることになり、日本の防衛自主性は事実上失われる。
 「日米同盟強化」の名の下で進むのは、従属的軍事連携の深化であり、独立国家としての主体性の喪失である。

 5 「経済安全保障」政策による軍産複合体の再興

 報告書は「防衛と経済の好循環」「防衛産業の育成」を掲げるが、その実態は軍需産業と官僚機構の結合強化である。
 防衛装備移転三原則の緩和、研究開発支援基金(約1兆円規模)の創設など、政府主導による軍需産業再編が進行中である。
 さらに、政府は日本学術会議への介入を強化し、2020年の会員任命拒否、2023年の組織改編の動きに続き、軍事研究への協力を事実上強要しようとしている。
 大学・研究機関・民間企業を「安全保障研究」の名で軍事技術体系に組み込む政策は、戦前の国家総動員体制を彷彿とさせる。
 併せて推進されているスパイ防止法制は、情報統制・思想弾圧を補完する装置であり、民主主義の基盤を脅かすものである。

 6 国民的議論の欠如と民主主義の崩壊

 報告書は「国民の理解を得て進める」と記すが、原潜導入の是非をめぐる国会審議は一度も行われていない。しかも、計画の核心部分は「防衛秘密」に分類され、情報公開請求すら封じられる。
 米国からの装備調達には、米側の機密保持契約が適用され、国内の検証・監視は不可能となる。
 このような手法は、国民の知る権利と文民統制を完全に形骸化させるものである。
 「安全保障と経済成長の好循環」というスローガンは、軍事費拡大を正当化するための政治的詭弁にすぎない。

 7 市民運動・反核運動の再生こそ急務

 広島・長崎の惨禍を経て、戦後日本は「非核三原則」と「憲法9条」を国是としてきた。その理念を支えてきたのは、市民の不断の運動と被爆者の証言である。
 しかし近年、政府の右傾化とメディア統制の中で、反核・平和運動は厳しい圧力にさらされている。
 原潜導入構想は単なる装備計画ではなく、自らが「核抑止戦略」へと転換するターニングポイントであり、将来的な核武装の道を開く。
 市民社会が沈黙すれば、平和国家としての日本は終わる。
 いまこそ、非核・非戦を掲げる市民的連帯を再生させることが求められている。

 8 「平和国家」から「潜在核国家」への転落を止めよ

 「次世代動力による潜水艦整備」という一文の背後には、原子力の軍事利用を容認する国家構想が潜んでいる。
 これは単なる技術論ではなく、戦後日本の平和主義体制を根底から覆す政治的転換である。
 いま日本に求められているのは、軍拡ではなく外交的信頼の再構築であり、抑止力ではなく「対話力」である。
 日本が進むべき道は、原潜でも核でもない。東アジア非核地帯の創設と平和共存の構築である。
 市民の監視と行動こそ、いまこの国に残された最後の民主主義の力である。
KEY_WORD:国産-原子力潜水艦-提言_:小型原子炉_:六ケ所_IAEA_核監視できず_: