[2025_08_01_06]指標 カムチャッカ巨大地震 地震予知連絡会長 遠田晋次氏 発生間隔の知見 見直しも 70年前のM9と同じ場所か(東奥日報2025年8月1日)
 
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指標 カムチャッカ巨大地震 地震予知連絡会長 遠田晋次氏 発生間隔の知見 見直しも 70年前のM9と同じ場所か

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 30日にロシア・カムチャツカ半島付近で発生したモーメントマグニチュード(M)8・8の地震は、大まかに見れば1952年に起きたM9・0の超巨大地震と同じ場所で起きた可能性がある。今回の地震は52年と比べ小さめだとはいえ、間隔が約70年とあまりにも短い。超巨大地震はおよそ500年間隔という、従来の考え方の見直しを迫られるかもしれない。
 もしそうなら、M9・1だった2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が今世紀中に繰り返す可能性も考えることになるだろう。

 今回の地震は、太平洋プレートが大陸の下に沈み込む「プレート境界」で発生した。長さ400〜600kmほどの断層が10m前後、ずれ動いたと考えられるが、これは52年の地震とうり二つのように見える。
 太平洋プレートの動く速さは平均で年8〜9センチ。この運動で、地震の際にずれるひずみがプレート境界にためられていくと考えれば、10m分のひずみがたまるには100年以上かかる。
 52年以降の70年余りにたまったひずみは5〜6m分のはずだが、今回の地震では2倍程度大きくずれた。これから詳細な調査や検討が行われるが、こうした計算が成り立たないような「自然の揺らぎ」があるのなら、衝撃的なことだ。

 大きな地震が起きると、その後に静穏な期間が長く続くという考え方「時間予測モデル」がある。小さめの地震なら次の地震までの期間が短くなるということだが、このモデルが成り立たなくなる可能性がある。
 静岡−宮崎の太平洋側にはプレート境界「南海トラフ」が延びており、ここでは巨大地震が繰り返してきた。
 1940年代の「昭和東南海」「昭和南海」が最後で、政府の地震調査委員会は、M8〜9級が30年以内に起きる可能性を80%程度としている。これにも時間予測モデルが反映されている。
 もし見直すなら、確率が変動する幅を大きくすることなどが考えられるが、防災上の対策は既に高い確率を想定して進んでおり、大きな影響は生じないだろう。

 14年前の東日本大震災についても同じだ。これまで想定していたように「次」が遠い将来ではなく、われわれの次の世代が直面する可能性を考えることになるだろう。
 もう一つ注意すべきことがある。今回の地震の10日前、7月20日に震源の近くでM7・4の地震が起きていたことだ。2011年の東日本大震災でも発生の2日前、3月9日に近くでM7・3の地震があった。
 いずれも、M7級の後にM9級が起きるという非常に珍しいケースだ。これを念頭に置いて運用されているのが、南海トラフ地震臨時情報だ。
 南海トラフ巨大地震の想定震源域でM7が発生したら、1週間程度は注意して備えを再確認するなどと求められる。
 今回は10日後にM8・8が起きた。1週間はあくまでも目安なので、もう安心だと油断してはいけないという教訓と捉えるべきだろう。ただし、M7のすぐ後にもっと大きな地震が来る確率はきわめて低いことも知っておいてほしい。 (談)

 <とおだ・しんじ 1966年宮崎県生まれ。鹿児島大卒、京都大防災研究所などを経て2012年から東北大教授。今年5月から現職。地震学>
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