[2025_05_09_02]国の想定 実態と隔たり 柏崎刈羽原発の避難計画 識者「安全へ実効性担保を」(東奥日報2025年5月9日)
 
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国の想定 実態と隔たり 柏崎刈羽原発の避難計画 識者「安全へ実効性担保を」

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 新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の重大事故時、住民避難で大きな役割を担うバスが県内事業者だけでは必要台数を確保できるか見通せないことが共同通信の調査で判明した。同原発の国の避難計画を巡っては、地震や豪雪が同時に起きる複合災害となった場合の不安が市民に根強い。これに加え、事業者がバス運転手の被ばくリスクを懸念していることも浮き彫りとなった。識者は、国の計画が実態と懸け離れていると指摘し、想定外の事態を前提に実効性を担保するよう求める。
 1月下旬、積雪が残る中、原発で重大事故が起きる想定をした県内の原子力防災訓練があった。原発が立地する柏崎市の住民約90人がバスに乗り込み、約35キロ離れた南魚沼市の避難先へ移動すると、足早に体育館内に入った。避難先には、花角英世知事が視察に訪れた。訓練では30キロ圏の9市町村の計約500人が避難手順を確認した。
 国が示す避難計画を含む緊急時対応の案は、自家用車の移動を原則とするが、訓練では雪道での事故を不安視する声などが寄せられ、大半がバスで避難した。実際、大雪の影響で2022年12月、県内で多くの車が立ち往生し、柏崎市内でも国道8号の約22キロが最大38時間通行止めとなった。
 東電は6、7号機の再稼働を目指しており、国の緊急時対応の策定は事実上条件の一つとなっている。15年から地元自治体と議論を重ね、大雪時の対応などを盛り込んだ質疑応答集も作成し、今月2日に最終案を示した。今後、住民説明会を経て、関係省庁と県などで構成する協議会で取りまとめ、首相をトップとする政府の原子力防災会議で了承される見通し。
 一方、東電は2月、再稼働に向け準備する7号機のテロ対策施設について、工事完了を25年3月から29年8月に遅らせると発表。設置期限の25年10月までの完成を断念しており、仮に再稼働しても期限後は再び停止することになる。
 再稼働については、地元同意が焦点となっている。花角氏は「議論の材料はそろってきた」とするが、判断時期の明言は避け続けており、25年10月までに再稼働できるかどうかは不透明だ。
 県と県バス協会は20年10月、原発事故時の避難者輸送に関する協定を結んだ。住民を避難させる業務による運転手の被ばく線量を予測。県が協会会員に協力を要請できるのは、平時の被ばく限度年1ミリシーベルトを下回る場合としている。
 ある会社は、勤務する運転手には協力への反対意見が多いとし「リスクなどの実験データを示してほしい」と求める。別のバス会社は、事故時は道路渋滞の他、運転手が家族の理解が得られず出勤できない恐れがあり「強制力がない協定に基づく計画は、絵に描いた餅になる」と危慎する。
 協定を巡り、ある観光バス会社は、現場任せの姿勢を凝問視し「真剣に危機管理意識を持つべきで、ドライバーを捨て駒にできない」と訴えた。別の交通会社は、近年の深刻な運転手不足も課題に挙げ「平時でもやりくりが厳しい」と明かす。
 東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は、必要な車両と経路の確保がバス避難の前提とした上で、国の計画はいいかげんな想定に基づき、中身も不十分だとし「住民の安全を優先し、放射線の健康被害をできる限り軽減する対応に責任を持つべきだ」と指摘した。
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