[2025_05_05_05]ブルーバックス_海底から聳り立つ「海山」。なんと、この地球に1万以上…じつは、「陸上よりずっとバラエティに富んでいた」海底地形の真実_藤岡換太郎(現代ビジネス2025年5月5日)
 
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ブルーバックス_海底から聳り立つ「海山」。なんと、この地球に1万以上…じつは、「陸上よりずっとバラエティに富んでいた」海底地形の真実_藤岡換太郎

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 宇宙で唯一の生命を育んだ「海」、あたりまえのようにそこにある「山」、そしてミステリアスな「川」……。地球の表情に刻まれた無数の凹凸「地形」。どうしてこのような地形になったのかを追っていくと、地球の歴史が見えてきます。
 「地球に強くなる三部作」として好評の『 川はどうしてできるのか 』『 海はどうしてできたのか 』『 山はどうしてできるのか 』を中心に、地形に関する選りすぐりのトピックをご紹介します。
 前回 、海(海底)の地形をも視野に入れて山を見ると、また違った展望が開けるというお話をご紹介しました。
 今回は、海底を踏まえた地形の捉え方の、4つの基本的な構造を解説します。

 【書影】山はどうしてできるのか

 *本記事は 『 川はどうしてできるのか 』『 海はどうしてできたのか 』『 山はどうしてできるのか 』 (講談社・ブルーバックス)の内容を、再構成・再編集のうえ、お届けします。

 じつは、海は陸地から遠ざかるほど浅くなる
 ここで、海底の地形について基本的なことを押さえておきましょう。山を考えることは地球の凹凸を考えることであり、それには地表の7割を占めている海を無視するわけにはいかないからです。
 もしかしたらみなさんは、海というものは陸から遠ざかるほど深くなっていくと思っていませんか?
 最近の科学が明らかにしたところでは実は正反対で、海は遠くへいくほど浅くなるのです。
 もしあなたが、海水を取り去った地球を人工衛星から眺めることができたら、きわめてドラマチックな大地形が見られるでしょう。最近ではGoogleEarthで同様の地形を見ることができます。
 海底には特徴的な、4つの大きな構造があります。それらは場合によっては陸上の構造よりはるかに大きいものです。

 筆頭は海底の山脈「海嶺」

 その第1は海嶺です(図「海嶺とトランスフォーム断層」)。たとえば大西洋の真ん中には、巨大な山脈が存在しています。この山脈は差し渡しが1000km以上もあって、高さは周辺の海底と比べて3000mほどです。北は北極海からアイスランドを経て、赤道を横切り、南は南極海まで連なっています。これが大西洋中央海嶺です。
 このような海底山脈は大西洋だけではなく、太平洋にもその東側に東太平洋海膨という高まり、山脈が連なっていますし、インド洋にもあります。
 これらは「山」というにはあまりにも大きな構造です。地球をなんと6万〜8万kmにもわたってぐるりと取り巻いているのです。これらの山脈はほぼ大洋の真ん中にあるので、大洋中央海嶺と呼んでいます。

 無数の線状の地形「トランスフォーム断層(断裂帯)

 大洋中央海嶺をよく見ると、それに直交する方向に無数の線状の地形があります。まるで刺身の切り身のようですが、これが トランスフォーム断層 または 断裂帯 と呼ばれる、海底第2の大構造です(図「海嶺とトランスフォーム断層」)。長いものでは大西洋の端から端まで、およそ6500kmにもわたって分布しています。
 「トランスフォーム」とはその一方の端の海嶺や海溝から、反対の端の海嶺や海溝への「橋渡し」をするという意味です。大きなものには発見した船の名前などがつけられていて、たとえば南太平洋にあるエルタニン断裂帯や北太平洋のメンドシノ断裂帯などがあります。これらは海水がなければ宇宙空間からでも容易に発見できるでしょう。
 実はこの構造は、海だけでなく陸上にもあります。カリフォルニア湾から北西に1000kmも伸びたサン・アンドレアス断層や、ニュージーランドを縦断して走っているアルパイン断層なども、やはりトランスフォーム断層です。

 日本列島の周りには豊富にある「海溝」

 第3の構造は海溝と呼ばれるもので、太平洋の縁に沿って広く分布しています。海溝とは、一般的には「水深6000mより深い溝状の地形」と定義されています。
 ただし、それより浅くても堆積物(たいせきぶつ)を取り去ったときに6000mの深さになるものも海溝に区分されています。たとえば南海トラフという海溝は現状では水深6000mに届きませんが、厚い堆積物を取り去れば優に6000mを超えます。
 日本列島の周辺にある海溝には、東北沖の日本海溝、北海道沖の千島海溝、アリューシャン海溝、伊豆・小笠原海溝、南海トラフ、琉球海溝などがあります。海溝では山はできずに、地震活動が起こっています。そのため日本列島ではほぼ毎年、どこかで大きな地震が起きています。海溝で起こる地震は震源が深く、津波を発生することがしばしばあります。

 この地球上に、少なくても1万はある「海山」

 第4の構造として、海山や海台があります。
 海山は、先の記事でも少し紹介したように、文字通り海の中にある山のことです。
 周辺の海底から1000m以上の比高を持つものを海山、それより小さいものは海丘と呼んでいます。海山は線状に並ぶことが多いため、ハワイー天皇海山列、ライン海山列といった名前がついています。
 海山の形はおおむね美しい円錐形(えんすいけい)ですが、ヒトデの腕のように何本も枝分かれした尾根(リフトと呼ばれている)を持つものもあります。また、頂上が平坦な海山はギヨー(平頂海山)とも呼ばれています(平頂海山を研究していたギヨーの名前を取ったもの)。海山の数は太平洋では1960年代には少なくとも4000個は知られていましたが、おそらくその数はもっと多く、1万近くあると考えられます。
 海山よりもさらに大きく、その頂上が平坦なものが海台です。
 ギヨーよりもはるかに巨大な、その名のとおり海の台地といえる構造です。のちに海洋底拡大説を発表したヘスは、海台は大陸の残ざん骸がいと考えていたようですが、実際は海山も海台も、膨大な量の溶岩が地質学的に短い時間の間に噴出してできたものです。

 地表にできた「でっぱり」である山は、陸海問わずに存在する

 海底にはこれらの特徴的な4つの大きな構造が見られます。その他の部分のほとんどは、深海底あるいは深海平原と呼ばれる平坦で広大な地域になっています。さまざまな堆積物で埋積された、文字通り深海底にある平原です。
 このように海からの視点を導入すると、山とは陸海問わず地続きの地表にできた「でっぱり」であることがよくわかると思います。地上の山だけが山ではないのです。
 このことは1950年以前にはあまりよくわかっていませんでした。イギリスがつくった世界最初の海洋調査船「チャレンジャー号」の1872〜1876年にかけての航海で、大西洋の真ん中がまわりより浅いことはわかっていましたが、海の中にも山があるとは考えられていなかったのです。

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 次回は、こうした海の底の地形の測り方についての解説をお届けします。
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