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[2025_04_14_05]米が原発回帰 ビッグテック、スリーマイル・小型炉に投資(日経新聞2025年4月14日) | ![]() |
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参照元
02:00 世界で過熱する生成AI(人工知能)ビジネス。それを支えるのが原子力発電所だ。米マイクロソフトがスリーマイル島原発から全電力を調達する20年契約を締結。小型モジュール炉(SMR)への出資も相次ぎ世界が原発活用へと大きく動き出した。 時が止まったような静寂の中、茶色くすすけた冷却塔がそびえ立つ。巨大な化石が我々を見下ろしているようだ。 米首都ワシントンから車で2〜3時間。米北東部の内陸を流れるサスケハナ川の中州にあるスリーマイル島。そこに立地するのが、1979年3月、世界を震撼(しんかん)させた炉心溶融(メルトダウン)事故を起こしたスリーマイル島原子力発電所だ。 同原発は2基から成り、2号機は79年の事故以降は停止、事故を免れた1号機は2019年に廃炉を決定。ロイター通信は「冷却塔の基礎の空洞部分には雑草が生い茂り、野生動物が走り回っている」と伝えた。 そんなスリーマイル島原発について、米マイクロソフトは24年9月、同原発から20年の長期供給契約を締結したと発表した。同社が契約したのは1号機。すでに廃炉が決まっていたが、再び稼働に向けて準備を進め、28年の運転再開を目指す。出力は約83万キロワット。運営会社の米電力大手コンステレーション・エナジーから全量の電力を買い取る。 スリーマイル再稼働の一報は日本の関係者も驚かせた。日本でいうと、11年に事故を起こした東京電力の福島第1原発1〜4号機の隣接機である5、6号機や福島第2原発を稼働するようなものだ。 なぜ古びた原発を再稼働するのか 国内の電力大手関係者は「事故機の隣接機の再稼働は国民感情を考えると日本では考えにくい」と話す。資源エネルギー庁の幹部は「現実的に考える米国らしい判断」と語る。 世界有数の天然ガス産出国である米国。日本とは対照的に広い国土を有し、再生可能エネルギーを導入する余地も大きい。電気を確保するなら、新たに火力、風力、太陽光などの発電所を整備すればよい。それにもかかわらず、何年も前に廃炉が決まっていた古びた原発から電気を供給しようと考えたのはなぜか。 できるだけ早期に、かつ大容量で安定して使える電気がほしいからだ。日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事は「ポテンシャルがある発電所をいかに利活用するか。その観点から経済合理性を突き詰めて判断したのがスリーマイル島原発の再稼働」と話す。火力は温暖化ガスの排出を伴うし、再生エネは天候や季節によって出力が変動してしまう。一方、すでにある原発なら、これらの課題をクリアできる上に新設するより稼働までの時間を短くできる。スリーマイル島原発はマイクロソフトにとって最適解というわけだ。 そして、背景にあるのが、莫大な電力消費を伴う生成AIの台頭だ。AIの普及には、巨大なデータセンターが欠かせない。国際エネルギー機関(IEA)によると、「ChatGPT」で1つの問いに答えるのに必要な電力はGoogle検索の約10倍。IT業界に詳しいIDCジャパンの伊藤未明リサーチマネージャーはデータセンターの拡大においては「電力確保が一番の肝になる」と話す。 IEAは、世界の電力需要は50年に23年比で倍増すると見通す。このうちAI普及に伴うデータセンターなどの電力需要は、26年までに22年比で最大2.3倍になると試算する。十分な電気がなければ、AI時代の幕は開かない。 原発の電力確保を急ぐのはマイクロソフトだけではない。生成AI開発に注力するビッグテックが相次ぎ原発活用へと動いている。 機動性が高いSMRに注目 米グーグルは24年10月、次世代原発の小型モジュール炉(SMR)開発会社である米スタートアップ、カイロス・パワーと電力購買契約を締結。30年までにSMRを稼働し、35年までに50万キロワット分を確保する。アマゾン・ドット・コムもSMRの米新興企業、Xエナジーに出資し発電事業と合わせ5億ドルを投じる。アマゾンは39年までにSMRの発電規模を500万キロワットに増やす。 日本では出力が1基で約100万キロワットの大型原発が主流だが、ビッグテックが着目するのはSMRだ。ここにはマイクロソフトがスリーマイル島原発を求めたのと同じ理由がある。早期に建設可能で、かつ安定して供給を受けられる点だ。大型原発は建設まで20年かかるといわれるが、SMRは早くて数年。脱炭素化を急ぐビッグテックは、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない点も重視する。機動力の高い脱炭素電源として注目されているのがSMRなのだ。 データセンター世界大手の米エクイニクスも24年、SMRの米新興オクロから20年間にわたって最大50万キロワットの電力を購入する契約を結んだ。オクロは米オープンAIのサム・アルトマン氏が会長を務めている。 エクイニクスのジョン・リン氏(写真=エクイニクス提供) エクイニクスのジョン・リン最高ビジネス責任者(CBO)は、「SMRはサステナブルであり、価値の高い電源の1つになる」と期待を込める。 エクイニクスは、米国を中心に世界30カ国以上で事業を展開。リン氏は「いずれ生成AIの需要が高まると見ていたがこんなに早く来るとは思わなかった」と打ち明ける。それに伴い、経営課題として急浮上してきたのが電力の確保。「以前は余剰電力を調達して対応していたが、今は難しい」。データセンターの建設地を電力を確保できる場所に変えたり、発電所を新設したりする抜本的な対策が不可欠になった。 米各社が原発に再注目しだしたのは、「この2〜3年」(リン氏)。「原発に関する動きは米国内でも30年近くなかったが、瞬く間に注目のテーマになった」 再生エネはCO2を排出しない点は理想的だが、出力が変動する弱点は拭えず、24時間365日、電力を供給し続けなければならないデータセンターを支えるには心もとない。再生エネ拡大に不可欠な送電網の整備も、相当な投資が必要で、米国でもなかなか進まない。その結果、行き着いたのが原発だ。世界一の経済大国、米国が原発に回帰している。 (日経ビジネス 中山玲子) [日経ビジネス電子版 2025年3月14日付の記事を再構成] |
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KEY_WORD:小型原子炉_:FUKU1_:FUKU2_:岸田首相_次世代-原発_検討指示_:再生エネルギー_:廃炉_: | ![]() |
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