[2025_04_02_06]日本の太陽光発電が大復活へ、苦境の洋上風力発電にも可能性(日経クロステック2025年4月2日)
 
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日本の太陽光発電が大復活へ、苦境の洋上風力発電にも可能性

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 資源エネルギー庁は2025年2月18日に、第7次エネルギー基本計画を取りまとめ、発表しました。記者としては、このエネルギー基本計画は(1)単なる方向性やお題目をふわっと示すだけで具体性や実現性に乏しい(2)強制力がない(3)発電やエネルギー関連の事業者に長期的な事業予見性を与えるのが本来の役割のはずなのに、3〜4年単位で方針がころころ変わり、むしろ事業者を混乱させている(4)同時同量則†を前提とした計画経済的な“ゼロサムゲーム”から脱却できておらず、自由主義経済的な電力事業の成長戦略を描けていない――といった理由で、あまり意味がないものと思っています。

 †同時同量則=電力系統における発電量はその需要量と常に一致していなければならないという技術的な制約。これ自体は変えることができないが、充放電効率が高い(損失が小さい)蓄電システムなどを大量導入すれば、実質的には制約を大幅に緩和できる。

 今回の第7次エネルギー基本計画も、2021年秋に発表された第6次エネルギー基本計画からの“変化”が目立ちます。計画そのものにはあまり意味がなくても、その変化を記者の視点から読者に伝えることは、多少の意味があるものと思って、この記事を書いています。
 この第7次エネルギー基本計画について一般紙でよく指摘されるのが、“原子力発電への回帰”ですが、記者から見るとそれは以前からの“既定路線”で、驚きはありません。今回は、むしろ再生可能エネルギーの各発電技術に対する姿勢の変化が目立つように感じました。具体的には、大きく2つの方針変更が読み取れます。1つは、驚くほどの太陽光発電への“回帰”。もう1つは、風力発電に対する“熱量”の低下、です。

 4年前は「太陽光発電は終わった」

 “第6次”を発表した2021年ごろは、大規模太陽光発電、いわゆるメガソーラーの適地が減少したことや自然林を伐採するような野放図なメガソーラーの開発が各地で問題になってきたことを背景に、「太陽光発電はもう頭打ち。代わりに風力発電、特に洋上風力発電に期待しよう」といったムードが経済産業省や資源エネルギー庁、あるいはエネルギー問題に敏感な国会議員の間に漂っていました。記者が取材した、ある国会議員は「これからは太陽光発電よりも洋上発電が有力だろう」と話していたのです。
 第6次エネルギー基本計画でも、そういったムードを反映してか、2030年度までの太陽光発電の累計導入量の目標値は103.5G〜117.6GWでした。2021年当時、既に60GW超が稼働していたことや、固定価格買い取り(FIT)制度などで認定済みの太陽光発電が累計約100GWに達していたことを考慮すると、2030年度までの約9年間での実施的な増加分はほとんどなく、未稼働の認定分を順次稼働させるだけという想定で、実質的には“太陽光発電は終わった”とする内容でした。
 風力発電については2030年度時点の目標導入量は陸上と洋上併せて23.6GWとかなり野心的で、「陸上・洋上風力発電ともに大幅拡大を目指す」(2022年3月時点の資源エネルギー庁)とうたっていました。

 太陽光発電へ大回帰!?

 一方、今回の第7次では明らかに太陽光発電への“熱量”が復活しました。よく指摘される、“国産”技術で、建物の壁などに設置しやすいペロブスカイト太陽電池を2040年までに20GW導入するといった方針を打ち出したことだけでなく、「農地についても、優良農地の確保を前提に、営農が見込まれない荒廃農地への再生可能エネルギーの導入拡大を進める。さらに、発電と営農が両立する営農型太陽光発電については、事業規律や適切な営農の確保を前提として、地方公共団体の関与等により適正性が確保された事業の導入の拡大を進める。加えて、空港、道路、鉄道、港湾等のインフラ空間等を活用した太陽光発電の導入拡大を図る」(第7次エネルギー基本計画から引用)と地上設置の太陽電池についてもあらゆる可能性を追求する姿勢を示しました。
 荒廃農地の活用や営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)という言葉がエネルギー基本計画の文書中に踊ったのはこれが初めてでしょう。2040年度における太陽光発電の発電量はグラフから読み取ると約3200億kWh。これを定格出力に換算すると約300GWです。2024年3月時点で約80GWが稼働しているので、今後約15年で約220GW増やすことになります。これまでの経済産業省や資源エネルギー庁の姿勢と比べて、驚くほど野心的な目標になったと言えます。
 強いて言えば、結晶シリコン(Si)系太陽光パネルの他国への依存を減らすために、日本のメーカーの復活を計画する姿勢も示してほしかったです。米国ではその計画が進行中です。結晶Si系太陽電池の製造もかつては日本の“お家芸”でした。今は、たとえ技術の素人でも、製造ラインを丸ごと導入することで、いきなり大規模な量産を低コストで始めることが良くも悪くも可能になっており、最先端の半導体事業に参戦するよりははるかに容易なはずです。

 洋上風力発電は終わった?

 対照的なのは、風力発電、特に洋上風力についてです。読んでトーンダウンしたとはっきり分かるような表現は第7次には含まれていませんが、第6次のときのような“熱い”表現がほとんど消えています。
 これは、2024年秋時点で既に資源エネルギー庁に伝わっていたであろう、三菱商事が2022年に事業化の権利を取得した秋田沖での洋上風力発電事業の苦境などが反映された結果だと考えられます。実際、2025年2月に三菱商事は、風力発電システムの資材の高騰を理由に522億円の減損損失を計上すると同時に、同事業をゼロベースで見直すことを発表しました。
 港湾に設置する場合を別にした本格的な洋上風力発電での実質的なトップバッターが派手な“空振り三振”に終わりそうな状況に、日本の風力発電関係者の中には、「日本の洋上風力発電は終わった」と悲観する人もいるようです。

 洋上風力への期待が裏目に

 背景には、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに化石燃料を中心としたエネルギー価格が高騰する一方で、脱化石燃料の旗手として洋上風力発電に世界的な注目が集まった結果、風力発電システムの調達費用も高騰してしまったことが挙げられています。
 実際、Global Wind Energy Council(GWEC、世界風力会議)によれば「2023年は風力発電の導入量が史上最高となった」としています。風力発電にとっては一見、明るいニュースですが、それがかえって資材のひっ迫とインフレーションを招いてしまった格好です。GWECは、2021年比で資材の価格が4割高騰。さらに、金利など資金の調達コストも高騰した結果、実質的に1.8〜2倍のコスト増になったと見積もっています(図1)。
 洋上風力発電システムの導入コストは、これまで50万円前後/kWといわれてきましたが、それが一気に2倍近くになると、事業が成り立たなくなるのも無理がありません。特に、日本で2022年から始まった、発電コストを競う形での入札制度では、想定外の資材高騰があれば即、命取りになってしまいます。
 GWECなどによれば、この影響は日本だけではなく、英国やドイツにも及んでおり、同じように洋上風力の導入に急ブレーキがかかっているようです。
 資源エネルギー庁は2025年2月18日に、第7次エネルギー基本計画を取りまとめ、発表しました。今回、再生可能エネルギーの各発電技術に対する姿勢の変化が目立つように感じました。具体的には大きく2つ。1つは、太陽光発電への回帰。もう1つは、風力発電に対する“熱量”の低下、です。
(後略)
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