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[2025_03_20_03]どんどん後退する日本の司法 原発安全神話におもねる姿勢に復帰 (上)(2回の連載) 「国の原発推進政策に呼応した司法は問題」 「科学的根拠とリスク評価の判断基準の劣化」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2025年3月20日) | ![]() |
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参照元
04:00 1.国の原発推進政策に呼応した司法は問題 東日本震災から14年を前に、立て続けに原発に関連した司法判断が出された。 しかしそれは、全て国の原発推進政策に大転換した行政に追従する司法の姿勢を見せつけるものだった。 いったい何が起きているのか、解読してみよう。 司法判断は次の3つ。 ◎川内原発差止訴訟判決(2月21日) ◎伊方原発差止訴訟判決(3月5日) ◎東電元副社長の刑事裁判無罪決定(3月6日) これらの共通する判断根拠について、どう考えたら良いのだろうか。 2.科学的根拠とリスク評価の判断基準の劣化− 裁判所は被告(東電)の主張を支持 東電福島第一原発事故に関連し、業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣に対する裁判では、検察側(指定弁護士)と被告側の主張について、最終的に裁判所は被告側(東電)の主張を支持した。 以下に、両者の主張と裁判所の判断を詳述する。 津波の予見可能性について、検察側は2008年から2009年にかけて、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が公表した「長期評価」に基づき東電は、最大15.7mの津波が福島第一原発を襲う可能性を試算していたと指した。 この試算結果は、当時の経営陣に報告されていた。 したがって検察側は、経営陣は津波リスクを予見し、防止措置を講じる義務があったと主張した。 この適切な対策を怠った結果、2011年の東日本大震災に伴う地震と津波で原発事故が発生し、避難中の双葉病院の患者ら44人が死亡するなどの重大な被害が生じた。これらは経営陣の過失によるものである。 一方、被告側の主張は、まず長期評価の信頼性について、長期評価が科学的根拠の不十分なもので信頼性に欠けると主張した。 そのため、この評価に基づいて具体的な対策を講じる義務は東電経営陣にはなかったとした。 なお、予見可能性の否定に関しては、当時の科学的知見や技術的限界から、15.7mの津波を具体的に予見することは困難であり、したがって過失は成立しないと主張した。 最高裁の判断は、まず長期評価の信頼性と予見可能性では、政府の「長期評価」について「信頼度も低く、10mの高さを超える津波が襲来する現実的な可能性を認識させる情報だったとまでは認められない」と判断した。 これで事故の予見可能性は否定され経営陣を無罪とした一、二審判決を支持する結果となった。 科学的根拠の信頼性やリスク評価の判断基準が刑事責任の有無に直結することを示した今回の判決は、今後の原発事故への対応や防災体制全体についても大きな後退を意味することになり重大である。 このほか、川内原発、伊方原発差止訴訟の判決でも、同様に予見可能性の是否について判断されているが、基本的には事業者の想定に加え、規制委が行った再稼働申請時の新規制基準適合性審査を経ていることで、科学的根拠をもって運転しているから問題がないとしている。 裁判所は、自ら原発のリスクを評価し、そのリスク評価が法的に許容される範囲内であると判断しなければならないところ、結局、規制委などの判断により基準を満たせば運転出来るとし、最高裁に至っては原発事故に際しても地震本部の長期評価に予見可能性がないため、津波に対する災害防止対策を行う義務は生じなかったとした。これでは、あまりにも事業者寄りの判決である。 3.「原子力規制法制」の明確性に関する後退 日本では原発の運転や事故時の責任について規定がある。 以下に、関連する法律との関係を整理する。 ◎原子力基本法−原子力を安全保障と絡めてエネルギー安保だけでなく 軍事利用への道にも 原子力利用を「平和目的に限る」と定め、研究・開発・利用に関する基本原則を示す。 事故対応や責任についての直接的な規定は原子炉等規制法(炉規法)で規定しているので存在しない。 第2条の基本方針では「安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康および財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として行うものとする。」とする。 しかしこの条文には大きな問題がある。 第一に原子力推進を前提としており、原子力安全規制の基盤となる規定というよりは原子力推進の意味合いが強いため「安全」と「稼働の是否」との衝突が起きた場合の優先度が明記されていないため行政・事業者よりになりがちだ。 第二に、原子力を安全保障と絡めており、エネルギー安保だけでなく軍事利用への道にも繋がる。 ◎原子炉等規制法及び原子力規制委員会設置法 原発の設置や運転に関する安全規制を具体的に定めている。事業者に対しリスク評価や安全対策の実施を義務付ける条文がある。 第23条で安全対策の基本原則を示し、原子炉の設置者や運転者が遵守すべき安全対策の基本原則が定められている。具体的には「リスク評価の実施」として、事業者は原子炉の運転に伴うリスクを評価し、その結果に基づいて必要な安全対策を講じなければならない。また「安全対策の実施」として、事業者は原子炉の安全を確保するために必要な技術的・管理的措置を講じることが義務付けられている。 第24条の安全規格の遵守では、原子炉の設計、建設、運転、保守に関する規格が定められており、具体的には「設計基準」として設計段階で地震や津波などの自然災害に耐えられるようにしなければならない。 さらに「建設基準」として、設計基準に従って行った建設の品質管理を徹底しなければなならない。「運転基準」として、運転においては保安規定の安全基準に従って行い、定期検査や保守業務を行うことが義務付けられている。 さらに第25条の「緊急時の対応」として、原子炉の運転中に発生する可能性のある緊急事態に対する対応策が定められている。 事業者は「緊急時対応計画の策定」として、運転中に発生する可能性のある緊急事態に対応するための計画を策定し、定期的に訓練を行うことが義務付けられている。 また「緊急時対応設備の整備」として、緊急事態に対応するための設備を整備し、常に使用可能な状態にしておかなければならない。 さらに原子力規制委員会設置法では、規制委の役割が定められている。 規制委は炉規法の規定に基づき安全規制を監督し、安全対策を事業者が適切に実施しているかどうかを監視することが義務付けられている。 また、第4条の規制の透明性と公正性では、規制委が行う規制の透明性と公正性が定められている。 規制の過程を公開し、公正な判断を行うことが義務付けられているのだ。 炉規法と規制委設置法は安全を確保するための重要な法律だ。 事業者はリスク評価や安全対策の実施が義務付けられており、規制委 は規制を監督する役割を担っている。 ただし、これらの法律をもってしても、予め実施される対策が妥当である保障はない。 また、大きな地震や津波の際には想定通りの揺れや津波が来る保障もない。 そのため、安全確保のためのマージン(想定津波が6mなら3倍のマージンを取って18mとか)を確保すべきであり、それが余りにも巨大になる(例えば20mを超えるなど)の場合は設置不適当と考えるべきだ。 敦賀2号機のように、新規制基準適合性審査の際に活断層上に重要構造物を作らないとの規定により再稼働を不可としているのは典型例だ。 規制委は新規制基準適合性審査を経た原発の安全性を保障しているわけではない。 それは規制委が明確に語っている。 法律上もそのような規定になっていないことを、伊方、川内の判決では無視している。 刑法の業務上過失致死傷罪や重過失罪などは、業務上の注意義務を怠り、人命を損なった場合、刑事責任が問われる。今回の場合は最高裁の判決において審理されるべきものが、されなかった。 4.原発事故を軽視する裁判所の判断− 原発事故は甚大かつ長期にわたる被害 最高裁第二小法廷は、刑法の業務上過失致死傷罪で起訴されているが「原発事故を予見できたか」「適切な対策を講じる義務があったか」が争点になっていた。 これについて裁判所の判断は「政府の長期評価(津波想定)の信頼性が低く、津波を現実的に予見できなかった」として、過失責任を否定したうえ「業務上過失致死傷罪」は、個人の刑事責任を問うものであり明確な義務違反が必要であるが明白な過失は認められなかったとして無罪としている。 伊方、川内原発の運転差し止め訴訟での争点は「原子炉等規制法や新規制基準に基づく安全性」と「原発のリスクが住民の生命・身体に具体的な危険を及ぼすか」であり、裁判所の判断は「新規制基準は合理的である」「これを事業者がクリアしている以上運転継続は容認される」というものである。 これでは震災前の司法判断に戻ってしまった印象だ。差止めを認めた過去の判決や決定と比較すると、それがよく分かる。 原発事故はひとたび起きれば国の存亡に関わる重大事を招くことは、チェルノブイリ原発事故や福島第一原発事故で明らかである。 この甚大かつ長期にわたる被害に鑑みれば、原発が安全であるかを国の審査を通ったからという論理で認める裁判所の判断は極めて安易で不十分である。 しかし、最近の差止め棄却の判断は、裁判所が原発の安全性を慎重に検討した様子は見受けられず、規制委員会の審査通り、被告電力会社の主張通りに無批判に原発の安全性を認めており、原発事故の可能性を否定している。 問題点をまとめると 「司法の役割は行政の追認ではない」 「市民の命を第一に考えた踏み込んだ審理が求められる」 「これを放置すると、再び『安全神話』が構築される危険がある」ということである。 (初出:2025年3月発行「たんぽぽ舎ニュース」) |
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