[2025_03_06_07]マグマは、いつ、どこで冷えたのか…「斑れい岩と玄武岩」の共通点と相違点が一発でわかる、シンプルなのに「納得の理由」_藤岡換太郎(現代ビジネス2025年3月6日)
 
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マグマは、いつ、どこで冷えたのか…「斑れい岩と玄武岩」の共通点と相違点が一発でわかる、シンプルなのに「納得の理由」_藤岡換太郎

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 私たちが暮らす地球は、豊かな恵みを与えてくれるいっぽう、地震、火山噴火などの大きな災害をもたらすこともあります。こうした大地の性質を「地質」といい、これを研究する学問が「地質学」です。
 地球はおもに、マントルなど基礎をなす部分に多い「橄欖岩(かんらんがん)」、海洋の近くで多く見られる「玄武岩」、大陸をなす「花崗岩」の三つの石でできているといいます。
 マグマが冷えて固まってできる岩石は、安山岩、流紋岩などの「火山岩」と、斑糲岩(はんれいがん)や閃緑岩(せんりょくがん)などの「深成岩」に分けられますが、今回は、その違いやでき方についての解説をお届けします。

 【書影】三つの石で地球がわかる

 2つの火成…その違いはどこにあるのか

 以前、中学校の理科で習う、6種類の代表的な鉱物をを取り上げ、その石の成り立ちから解説した記事を発表しました。わかりやすいと、好評をいただきましたが、前回の記事でご紹介した花崗岩のでき方ともあわせて読んでいただければ、石の成り立ちについの興味深い物語が見えてくると思いますので、あらためてそのエッセンスをご紹介したいと思います。
 マグマが冷えて固まってできる岩石を火成岩といいますが、この火成岩は地球上のすべての岩石の60%占めています。
 火成岩はさらに、マグマが地表や地表近くで急速に冷えて固まった火山岩と、マグマが地下深くでゆっくり冷えて固まった深成岩とに分けられます。教科書では、六つの石を次のように分類しています。
 ・火山岩……玄武岩、安山岩、流紋岩
 ・深成岩……斑糲岩(はんれいがん)、閃緑岩(せんりょくがん)、花崗岩
 こちらも以前の記事で述べましたが、花崗岩には堆積岩が変成してできるSタイプもあるので、一概に深成岩とはいえないと私は考えていますが、ともかくここはこの分類に沿って、説明を進めていきましょう。
 火山岩の結晶分化

 私は、岩石のでき方について説明するとき、カレー鍋のたとえを持ち出すことが多いのですが、理科の先生だったら、やはり、このカレー鍋のたとえを持ち出すでしょう。マグマは冷えて固まる時の温度でまったく違う石になる、という記事でも取り上げましたが、玄武岩をいろいろな「具材」が溶け込んだカレーに見立て、それが冷えるとさまざまな具材が結晶となって出ていくために、カレーがさまざまに変化するという話をしました。
 そのときは個々の具材、つまり造岩鉱物の名前は出しませんでしたが、あらためて中学校の授業として考えると、造岩鉱物の名前もあげて、マグマの結晶分化について説明したいと思います。そこで以下は、その考えに沿って話を進めていきます。

 【図】 火山岩と深成岩の結晶分化作用
 火山岩と深成岩の結晶分化作用(再掲)

 火山岩の大本は、玄武岩です。玄武岩は地下深くでは1200℃以上の高温で、橄欖石、輝石、角閃石、雲母、長石、石英、磁鉄鉱などさまざまな造岩鉱物がどろどろに溶け込んだマグマの状態です。しかし、マグマが上昇していくにつれて次第に冷えていくと、これらの鉱物は融点の高い順に、結晶となって晶出してきます。

 【写真】火山岩の例
 左:橄欖石(olivine)、上右:角閃石(amphibole)、下左:輝石(pyroxene)、下右:正長石(orthoclase) photos by gettyimages

 まず、最も融点が高い橄欖石が出てきます。マグネシウムや鉄を多く含む橄欖石の結晶は重いため、マグマの液とは分離して、沈んでいきます。残ったマグマは玄武岩よりケイ素の割合が大きい安山岩のマグマになります。
 次に、そこからさらに輝石、角閃石、雲母などが分離していきます。残ったマグマはそれにつれてケイ素の割合が大きくなります。そして最終的には流紋岩になるというわけです。デイサイトという石は、中学校の教科書では出てきません。
 要するに、マグマが冷えていくにつれて次々に金属元素を含む造岩鉱物が晶出していき、そのたびに残ったマグマはケイ素の割合が大きくなり、最初は黒っぽかった色は、だんだん白っぽくなっていくのです。ケイ素の含有率は、玄武岩が50%前後、安山岩が60%前後、流紋岩が70%前後です。
 なお、流紋岩という名前は、表面にマグマが流れた跡(流理)が見られるものがあるためにつけられました。

 深成岩の結晶分化

 次に、深成岩の結晶分化についての説明です。と言っても、大筋は火山岩と同じで、マグマが冷えるたびに融点の高い順に造岩鉱物が結晶となって出ていき、そのたびにマグマはケイ素の割合が大きくなり、白っぽくなっていくというシナリオです。この結晶分化が地表の近くで起こるのが火山岩で、地下の深いところで起きるのが深成岩というわけです。
 このとき、玄武岩(火山岩)に対応する深成岩が斑糲岩であり、安山岩に対応するのが閃緑岩、流紋岩に対応するのが花崗岩です。ケイ素の含有率も、それぞれが対応する火山岩と同じ割合となっています。ただし、火山岩よりもゆっくり冷えるので、個々の結晶は深成岩のほうが大きく育っています。
 およそ以上が、中学生でも分かるように説明した結晶分化です。中学校にしてはかなり高度なことを教えているのではないか、これが理解できているのだったら筆者の本など読まなくてもいいじゃないか、と言われてしまいそうです。実際、そうかもしれませんが、図「火山岩と深成岩の結晶分化作用」には私らしく、カレー鍋にたとえた結晶分化の全体像を掲げておきます。

 【図】 火山岩と深成岩の結晶分化作用
 火山岩と深成岩の結晶分化作用(再掲)

 これはある意味で「火成岩の家系図」ともいえるでしょう。斑糲岩(はんれいがん)は玄武岩の弟分で、閃緑岩は玄武岩の甥っ子といった感じになるでしょうか。この二つの石について、もう少し紹介しておきましょう。

 「黒御影」なら聞いたことがある…じつは身近な2つの深成岩

 斑糲岩の「糲(れい)」とは、おそろしく難しい漢字ですが、「くろごめ」つまり玄米のことです。白い斜長石の中に黒い輝石が斑点のような粒状に見えているのを、そのように表現したようです。
 名づけ親は、これまた小藤文次郎です。その模様が花崗岩に似ていて色は花崗岩より黒っぽいことから「黒御影」とも呼ばれて、石材としても使われています。

 【写真】斑糲岩が見られる筑波山山頂
 筑波山・女体山山頂付近の岩越しに関東平野を望む。筑波山山頂付近は斑糲岩が見られる。同じ斑糲岩でも、結晶分化作用によって含まれる斜長石の結晶の比重から、男体山と女体山で色がやや違って見えるという (後述) photo by myuta-ibrk

 閃緑岩は火山岩の安山岩に対応しますが、暗緑色で、安山岩よりも角閃石が多いことが特徴です。小藤文次郎は「緑岩」と、彼にしては珍しくシンプルな命名をしたのですが、のちに地質調査所の中島謙造が角閃石の「閃」の字を加えて改名しました。
 珍しいものでは、角閃石や斜長石などの結晶がいくつもの円となって表面に現れた球状閃緑岩があり、日本で数少ないその産地である宮城県白石市(しろいしし)では「菊面石(きくめんせき)」と呼ばれて国の天然記念物に指定されています。
 これらの岩石にはさらに、橄欖石を多く含めば橄欖石斑糲岩、花崗岩に組成が近いものは花崗閃緑岩など、さまざまなバリエーションがあります。

 ボーエンの功罪

 じつはこのような結晶分化は、きわめて単純化されたモデルです。実際には造岩鉱物の融点はマグマの組成によっても、含まれている水の量などによっても違ってきますので、造岩鉱物が晶出してくる順序はまちまちです。色もこれほどわかりやすいグラデーションにはならず、白黒だけでは岩石の見分けがつかないことも多いのです。

 【写真】花崗閃緑岩で作られている上高地のウォルター・ウェストンのレリーフ
 上高地にある、英国人宣教師で、日本アルプスを紹介したウォルター・ウェストンのレリーフ。この地の花崗閃緑岩で作られている photo by kaba-kichi

 こうした結晶分化のモデルを考えたのは、すべての岩石はただ一つの起源をもつという「本源マグマ」の考え方を提唱した、米国カーネギー地球物理学研究所のノーマン・ボウエンです。彼は岩石の溶融実験を繰り返して、本源マグマと結晶分化という着想を得ました。
 そのこと自体は、火成岩の統一的な説明を可能にした偉大な功績だったのですが、その後、前述したように同位体や微量元素の測定技術が進むと、話はそうそう単純ではなく、玄武岩質マグマのほかにも岩石のもとになるマグマが見つかったり、結晶分化にもさまざまなパターンがあることがわかってきたりしているのです。
 いまでは本源マグマという言葉よりも、もっと限定的な意味合いで「初生マグマ」という呼称が使われるようになってきています。
 ボーエンの考えはいまでは古くなってしまった点が多々あるために、じつは中学校の理科では、この結晶分化のモデルはもう教えられなくなっており、教えることを問題視する指摘が、地学研究者からもなされていました。

 石の色、硬さ、顔つきや、手触りを、分かりやすく知りたい

 しかし、石の名前や述語はあまりに煩雑です。「石に興味をもっていただく」という点からは、厳密さよりも大づかみなイメージをつかんでいただくことこそ大切だと考えています。
 とはいえ、 石の色とか、硬さとか、岩相(顔つき)や手触りなどの性質は、「その石がどんな鉱物でできているか」「どんな元素がどんな割合で含まれているか」といった、ところで決まります。
 しかし、岩石を紹介する文章では、ふつうは真っ先にそうした組成に関する記述から始まります。たとえば橄欖岩のプロフィールならば、「この石はおもに橄欖石、直方輝石、単斜輝石という三つの鉱物からなり、ザクロ石、スピネル、クロム鉄鉱、雲母、角閃石なども含まれます。おもな構成鉱物である三つの鉱物の割合によって、さらに細かい分類名がつけられています」といった感じです。
 やはり、石についてきちんと理解していただくためには、こうした鉱物のレベルでの組成についての説明を、避けて通ることはできません。
 拙著『三つの石で地球がわかる』では、石の性質というものがどのようにして決まってくるのか、そして、どこが違うとどのように性質が変わってくるのか、いわば「石の原理」を、あくまで大づかみにご理解いただけるように筆を進めました。
 きっと「石っておもしろいな」と感じていただけるはずです。
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 次回は、石の原理のキホンがわかる「石のサイエンス」についての解説をお届けします。
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