[2017_07_20_03]準備書面(50) 東海第二原発のケーブルの老朽化問題について 原告 川澄敏雄(東海第二原発差止訴訟2017年7月20日)
 
参照元
準備書面(50) 東海第二原発のケーブルの老朽化問題について 原告 川澄敏雄

 04:00
         準備書面(50)
  東海第二原発のケーブルの老朽化問題について

 私は、日立製作所に在職中、プロセスコンピュータシステムのケーブル配線工事のための図面を作成する業務に従事した経験をもっています。
 その経験もふまえ、東海第二原発におけるケーブルの老朽化問題について主張します。
                     原告 川澄敏雄

                         準備書面 1頁

 1.はじめに

 東海第二原発のケーブル 総延長 1400km
 難燃性ケーブルがほとんど使われていない
 (装置増設等で追加した分以外)
      ↑
    燃えやすい!!

 再稼働するなら、全て難燃性ケーブルに取り替えるべきなのに・・
 半数以上を非難燃性のままで 再稼働を計画
      ↑
    極めて危険性が高いことを主張する


                         準備書面 2頁

 2.プラントにおけるケーブルの役割

 ■ケーブルは何でできているか

  ●導線(導体)・・・電気を通す
  (銅などの金属・・・燃えない)
  ●被覆(絶縁体)・・・電気が漏れるのをブロック
  (合成樹脂など・・・燃える)

 ■ケーブルの用途

  ●電力用・・・電気を機器に供給 ・・・人体では血管
  ●計装・制御用・・・機器の状態や制御信号を伝送 ・・・人体では神経

 ■電力用と計装・制御用 どちらかがダメになると
 ・・・原子炉では、プラント全体の健全性を保つことができなくなる

  ●炉内の状態がわからなくなる
  ●機器を動かせなくなる(電気を送れないから)
  ●機器の起動/停止ができなくなる/機器が勝手に動くこともある


                         準備書面 3頁

 2.プラントにおけるケーブルの役割

 ケーブルの役割と特徴を電力用と計装・制御用に分けて整理すると・・・

[表1]ケーブルの役割と特徴


                         準備書面 3〜4頁

3.東海第二では必要な性能を欠いたケーブルが・・・

 (1)難燃性/非難燃について

 (1975年3月)米国・ブラウンズフェリー原発火災事故とその教訓
 ケーブルに着いた火がケーブルを通してプラント全体に燃え広がり、炉心冷却が不十分になるなど危機的状況に陥った

 =>事故の教訓から、日本では「原発のケーブルは、難燃性にすべし」
   (1980年11月「火災防護に関する審査指針」)を定めた

 [写真]
 ブラウンズフェリー原発 火災事故後のケーブルトレイの状態
 (2013年6月20日放映 NHK「クローズアップ現代:"世界最高"の安全は実現できるのか」より)

                         準備書面 4〜5頁

 3.東海第二では必要な性能を欠いたケーブルが・・・

 ●難燃性ケーブルが使われていない・・・その理由
  旧火災防護審査指針ができる1980年の前に建設したため、難燃性ケーブルを使わなかった。
  代わりに、(アスベストが含まれる)延焼防止材を塗布。

 (2)放射線に対する耐環境性について
  ●原発用の耐放射線性をもったケーブルが使われていない・・・その理由
   1980年代に複数の電線メーカーによって、「耐放射線性に優れた原発向けケーブル」が開発された。
   東海第二建設時には、まだ存在しなかった。よって使いようがない。
  (※日立電線梶F1981年に「BWR用難燃ケーブル開発」と発表)
  ★「本来、原発にとって必要な性能」を満たしていないケーブルによって成り立っているのが、東海第二原発

                         準備書面 5〜6頁

 4.ケーブルの健全性確保は安全対策として死活的課題

 (1)ケーブルの耐用年数 ・・・ 日本電線工業会によると
  「耐用年数の目安」:10〜30年
  (「実際の耐用年数は、ケーブルの種類と使用環境によって変わってくる」)

   [表1] 電線・ケーブルの耐用年数の目安
  (日本電線工業会 技術資料第107号「電線・ケーブルの耐用年数について」より)

 (2)建設時に敷設したケーブルは、40年を過ぎ、「目安」をオーバー、もし、交換せずに運転延長した場合、60年使用することに
   (「目安」の最長)30年の2倍)

                         準備書面 6〜8頁

 4.ケーブルの健全性確保は安全対策として死活的課題

 (3)ケーブルの健全性はどのように評価されてきたか

 ■原電「30年目の評価で60年間の運転を仮定しても十分に健全性を維持できる。国の確認をいただいている」(原電のホームページ)
・・・事実と異なり、住民に対する虚偽の安全宣伝。

  ●2007年 経産省に提出した「高経年化技術評価等報告書」で、
   原電は、「60年間の絶縁性能を維持できる」としながらも、(一部のケーブルについては)「実機と同等のケーブルを用いて、中長期(2017年まで)に、同様な長期健全性評価を実施し、その評価手法についても、同様に国の安全研究の成果の反映を検討していく」と、追加保全策実施の必要性を自認。

  ●経産省からの指示で原子力安全基盤機構が原電の「報告書」を評価し、「追加保全策実施」を要求。よって、「無条件で60年使用可」は誰一人言っていない。

                         準備書面 7〜8頁

 4.ケーブルの健全性確保は安全対策として死活的課題

 ケーブルの健全性評価をどのようにやってきたのか
 最新の知見・・・「目視点検・絶縁抵抗測定だけでは不十分」

@原子力安全基盤機構「ケーブル経年劣化評価ガイド」(平成26年2月)では、
「通常運転時の熱・放射線による経年劣化を想定した電気学会推奨案の加速劣化手法は、必ずしも実機を正確に模擬できていない可能性があることが分かっている」。
A三宅悟氏(褐エ子力安全システム研究所技術システム研究所)の論文
=「原子力発電所の低圧ケーブル非破壊劣化診断技術」では、「目視点検や絶縁抵抗測定による健全性の確認は行われているが、それだけでは劣化度や残存寿命の診断が困難」とし、非破壊検査による劣化診断を提案。

 これらの新しい知見に照らせば、
 原電が実施してきた「絶縁抵抗測定による健全評価」だけで、
 「60年間使用可能」とは言えない。

                         準備書面 8頁

 4.ケーブルの健全性確保は安全対策として死活的課題

 (4)事故時に絶縁性能低下が顕在化し制御不能となる可能性

 ■ケーブルの健全性確保は、平常状態においてはもちろん、重大事故環境下においてこそ重要な課題となる。
 ■東海第二原発は、再稼働しようとすれば、「延長審査」が必要。
 ■「実用発電用原子炉の運転の期間の延長の審査基準」では、電気・計装設備の絶縁低下について、重大事故環境においても、有意な絶縁低下が生じないことを要求。
 ■経年劣化が進んでいるケーブルが、重大事故環境下で放射線照射や熱によって急激に劣化が進行する。これによって絶縁性能低下が顕在化し、原子炉が制御不能に陥る可能性を排除できない。

                         準備書面 9頁

 5.東海第二の「ケーブル安全対策」の問題点は何か

 (1)原則である「難燃ケーブル使用」を実現できない

  現行の関連規則は、「難燃ケーブル使用」を明確に規定
   規則に従って、難燃ケーブルに交換するならば、ケーブル老朽化問題は、全て解決できる
  しかし、原電は、原則、難燃ケーブルに取り替えると言いながら
   @ケーブル取替に伴い安全上の課題が生じる範囲
   A代替措置が適用でき、火災リスク増加がない場合
            ↓
     ケーブル取替以外の措置(代替措置)
   その結果、48%以上の非難燃ケーブルが残る

                         準備書面 10〜11頁

 5.東海第二の「ケーブル安全対策」の問題点は何か

 (2)「防火シートによる複合体形成」の問題点

  複合体とは・・・
  [原電の説明@]
  ●ケーブルトレイ全体を防火シートで覆う
  ●防火シートの素材は不燃性
  ●防火設備に要求される遮炎性[原電の説明A]
  ●外部火災によるケーブルへの火炎伝搬を防止するとともに、ケーブル発火時における外部への延焼防止も抑制できる

 [図]「東海第二発電所 非難燃ケーブルの対応について
      添付資料」(平成29年5月25日付)より

                         準備書面 10〜11頁

 5.東海第二の「ケーブル安全対策」の問題点は何か

 (2)「防火シートによる複合体形成」の問題点

 ●原電「防火シートの遮炎性により上段トレイ敷設のケーブルへの延焼が抑制される」と説明するが、楽観的自己満足の域を出ていない。
 ●更田豊志規制委員長代理「(難燃ケーブルの火炎が図のように燃え広がると言う前提が)なんら立証できていない」。
  (2017年5月25日 規制委員会審査会合)
 ●「逆効果」・・・ほとんど検証されていない。
 ア.防火シートを巻くことによって、熱の放出が妨げられ絶縁物の劣化がより早まる可能性。通電容量が下がることについての検討は、おざなり
 イ.防火シートを巻く作業の際、ケーブルを引っ張ったりすることによって、ストレスを与える可能性

[図]「東海第二発電所 火災による損傷防止(非難燃性ケーブルの対応:コメント回答)」(平成29年5月25日付)より

                         準備書面 13〜14頁

5.東海第二の「ケーブル安全対策」の問題点は何か

(3)「ケーブル安全対策」工事と施工後の確認検査の問題

 @アスベストによる作業者の健康被害
  アスベスト(石綿)・・・断熱材として使われていたが、肺がんの原因になることが判明し、2006年に製造、使用などが法で禁止された。
  ■原電は、全ケーブル取替の困難性の一つとして「ケーブルにアスベストを含む延焼防止材が塗布されているので安全管理が困難」をあげ、ケーブル撤去、整線の作業によって、アスベストが飛散し作業員が吸い込むのを防ぐ措置を講ずる必要がある」としていた。
  ■複合体にする場合も、防火シートを巻く際、アスベストが飛散する可能性が高いので、対策は必要。

[図]「東海第二発電所 火災防護について(非難燃ケーブルの防火措置による難燃性能向上について) 」(平成28年9月16日付)より

「アスベスト対策が困難」は、全ケーブル取替が困難な理由にはならない。

                         準備書面 14〜15頁

 5.東海第二の「ケーブル安全対策」の問題点は何か

 Aケーブル1本の追加作業で火花発生

 ■1月16日、たった1本のケーブル、を追加する作業において、火花を発生させるトラブル発生。
 ■満杯状態の電線管に、メッセンジャーワイヤーという不適切な治具を用いて、ケーブルを無理矢理入れ、通電状態の既設ケーブルの絶縁体が破損して導体がむき出しとなり、電気回路が短絡し火花が発生。
 ■大量のケーブルの工事を安全にできるのか。

 B「安全対策」施工後、誰が確認するのか

 ■原子力規制委員会の更田豊志委員(当時)
 「ケーブルに限らず、原子力発電所に使われている無数の機器に対し、すべてを私たちが検査していくことは不可能」と発言。(2013年6月20日、NHK「クローズアップ現代」)
 ■事業者に「お任せ」とならざるを得ないのは、大きな問題。

 5.東海第二の「ケーブル安全対策」の問題点は何か

 (4)ケーブルトレイの耐久性

 ■東海発電所原子炉圧力容器内のケーブルトレイが炉内で落下(1987年11月9日発見)
 ■トレイを圧力容器に固定する止め金具が腐食して破断
 ■「防火シート」でトレイが重くなる。類似した事故が発生する可能性ないのか。

(5)OF(Oil Filled)ケーブルを使用している問題

 ■2016年10月12日 東電の地下送電設備でケーブル火災事故
 ■高圧電力を送るためのケーブル。
 ■導体の内側に絶縁用の油が流れるパイプ。
 ■劣化による漏電の危険があるため、東電は、油を使わないケーブルへの切り替えを進めていた。
 ■一般的耐用年数は30年。東電は35年使い問題視された。東海第二は、40年以上。
 ■住民報告会で、原電は「地中で使っているので問題ない」とし、「ケーブル安全対策」の検討課題にしていない。

 6.終わりに

 ■燃えやすいケーブルが使われ、製造後40年以上経ち劣化が進行している。
 ■原電の計画では、再稼働後もその多くが残されることに。
 ■ケーブルの経年劣化について、新しい知見を取り入れた評価がなされて
いない。
 ■(原電も言うように)、原発は一斉に全ての装置を止めることができない。よって、ケーブル全部取替えが極めて困難。
 ■「防火シートを巻いて複合体にする」方法では、全てを難燃ケーブルに取替えるのと同等あるいはそれ以上の安全対策になるという保証無し。
 ■原子力規制委員会が「審査合格」とすることはあり得ないものと考える。
 ■ケーブルの全取替えは不可能
 代替措置によっても安全性が保証できない
  ==> 隘路に陥っている
 ■このような原発を再稼働させたならば、大火災事故につながる可能性大。
 ■このような不安全な東海第二原発の運転は許されるべきではない。


KEY_WORD:東海第2-中央制御室-出火_:TOUKAI_GEN2_: