[2025_10_22_03]【フィリピン】活断層調査で大地震に備えを 比大研究所トップ、政府に提言(アジア経済ニュース2025年10月22日)
 
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【フィリピン】活断層調査で大地震に備えを 比大研究所トップ、政府に提言

 11:30
 フィリピン中部のセブ島や南部のミンダナオ島沖で先月末から今月上旬にかけてマグニチュード(M)7前後の大型の地震が相次ぎ発生したことを受け、国内ではマニラ首都圏で大地震が発生するとの懸念が出ている。フィリピン大学レジリエンス研究所(UPRI)のマハル・ラグマイ所長はNNAのオンラインインタビューで、最近起きた複数の地震に直接の関連性はないとしつつも、環太平洋火山帯に位置するフィリピンでは潜在的に地震リスクがあると指摘。大地震に備えるため、全国で活断層調査を進めるべきだと提言した。

 −−セブ州やミンダナオ島の東ダバオ州、ルソン島のサンバレス州など、フィリピンで地震が相次いでいる。

 M7レベルの地震は世界で年に十数回発生している。フィリピンは環太平洋火山帯に位置しているため地震が起きやすく、今回はたまたま大きな地震が続いたということだ。
 2013年にビサヤ地方のボホール島でM7.2の地震が発生した際も、大きな余震が続いた。通常、本震の後に起きる余震はそれよりM1.1ほど小さくなる。本震と余震の連続で大きな地震が続くことは珍しくない。

 −−ただ今回は近いタイミングで大型地震が相次いだ。

 10年代後半にもルソン島のバタンガス州で複数の地震が発生した。19年にはサンバレス州の地震の後にミンダナオで大型地震が発生した。こうした現象は過去にもあり、今回は単に2週間のうちに大型地震が集中したに過ぎない。
 フィリピン全体が火山帯に位置しており完全に無関係とはいえないが、セブで起きた地震の活断層はミンダナオでM7.4の地震を引き起こした活断層とは別のもので、かなり離れている。

 −−活断層の場所を知る必要があるということか。

 その通りだ。地質学者は断層を地図化する。過去に動いた証拠を見つけ、詳しく調べることで最後に動いた時期や地震の規模を判断できる。その情報を地域に共有すれば、住民が防災計画を立て、適切な対応を取ることができる。
 原則として断層から5メートル以内の場所には建物を建ててはいけない。他国では15メートル、場合によっては20〜25メートルとする国もあるが、フィリピンは5メートルとしている。

 ■全社会的な取り組み必要

 −−政府は活断層の特定にどのように取り組んでいるのか。

 フィリピン火山地質学研究所(Phivolcs)がその役割を担っている。ただ、国土は約30万平方キロメートルと広大で、すべての断層を地図化するだけの人員が不足しており、測量できていない地域がある。13年のボホール地震、19年のミンダナオ地震、そして今回のケースも測量が十分にできていなかった。(9月30日に発生したセブ島北部を震源とする地震では)過去に実施された調査で、北西部の「ボゴ断層」は確認されていたが、今回の原因となった北東部の「ボゴ湾断層」は特定できていなかった。

 そのため政府だけでなく、全社会的に対策に取り組む必要がある。全国の大学で専門家を養成し、それぞれが地元の断層を調査できるようになれば、活断層を地震発生前に特定できる可能性が高まる。

 フィリピンには12年に災害軽減管理プロジェクト「NOAH(ネーションワイド・オペレーショナル・アセスメント・オブ・ハザード)」の一環として航空レーザー測量(LiDAR)技術が導入された。17年にプロジェクトは終了したが、技術は今も存在し、現在ではドローン搭載型のLiDARもある。LiDAR搭載ドローンのコストは、1台当たり250万〜300万ペソ(約650万〜780万円)と、以前に比べ安くなっており、全国の活断層を把握するために投資することは十分に可能だ。

 −−国民の防災対策については。

 現在も年に数回「全国一斉地震避難訓練」が実施され、学校でも訓練が行われている。一方で、防災意識を文化として根付かせることが重要だ。芸術や音楽、ダンスを通じて日常生活の中で防災教育を行うことができる。
 地震の被害を抑えるためには、まずは活断層上に建築物を建てないこと、次に建築基準法を順守することが必要だ。津波や火災、地盤沈下などの危険性も理解する必要がある。十分な備えを地震が発生する前に始めることが重要だ。

 ■科技相、基準満たさない住宅に警鐘

 フィリピンのソリダム科学技術相は17日、NNAのオンライン取材に応じ、フィリピンで首都直下型大地震(ビッグワン)が発生した場合、約3万人の死者が想定されると指摘した。特に建築基準を満たさず建てられた住宅で被害が拡大するとみている。主なやりとりは次の通り。

 −−セブ、ダバオで大型地震が発生したことにより、首都圏でビッグワンへの備えを急ぐ動きが出ている。準備は十分か。

 以前に比べて準備は進んでいるが、今回のような大地震を想定した場合、インフラや住宅の質にはまだ多くの改善の余地がある。最新の調査によると、(ビッグワンの発生で)首都圏だけでも約3万人の死者が出る可能性がある。周辺の州を含めると、犠牲者は最大5万人に上る恐れがある。
 こうした犠牲者の多くは、耐震基準を満たさない「ノンエンジニアード住宅」や老朽化した住宅に住んでいることが要因となる。耐震補強が必要で、中には本来は解体されるべき集合住宅もある。また1992年以前の建物は、構造がやや硬直的で地震の揺れを吸収しにくい。

 −−国内の建築基準法では今回のような大型地震に耐えるよう設計されているはずだが、セブでは大きな被害が出た。

 建物が技術者の監理を受けずに建てられている場合は地震で大きな影響を受ける。基準に沿って建てられているという前提では、セブでは深刻な被害は想定されていなかった。
 ノンエンジニアード住宅の多くは非正規の居住区にある。住宅需要の大きさから、地方自治体も建設を止めようとしない傾向がある。地方自治体が主導し、政府が支援する形が理想だが、住民自身にも責任がある。粗悪な建物を建ててしまうと、地震で命や住宅、資産を失うリスクが大きい。実際には、建築基準法に従って建てる方が総合的なコストは低く済む。

 (聞き手/Tiziana Celine Piatos)
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