[2025_07_10_01]新燃岳 噴煙5000mの噴火から1週間 溶岩流伴う噴火の想定も(NHK2025年7月10日)
 
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新燃岳 噴煙5000mの噴火から1週間 溶岩流伴う噴火の想定も

 19:53
 活発な噴火活動が続く霧島連山の新燃岳で、噴煙が5000メートルまで上がる噴火が起きてから、10日で1週間です。最新の研究で、地下のマグマの影響が強まっている可能性も示され、気象台は引き続き警戒するよう呼びかけています。

7月3日 鹿児島 霧島

 霧島連山の新燃岳では、6月22日に2018年6月以来となる噴火が発生し、その後も10日にかけて断続的に噴火が起きています。
 この噴火活動で1週間前の7月3日の午後には、噴煙が火口から5000メートルまで上がりました。
 火山ガスに含まれる二酸化硫黄の放出量も6月23日に1日あたり4000トンと急激に増加し、3日前の7日の観測でも900トンとやや多くなりました。
 また衛星による観測で地下深部の膨張を示すわずかな変化も見られるなど、気象台は火山活動が活発な状態で経過しているとしています。
 さらに、産業技術総合研究所が7月2日の噴火の火山灰を分析した結果、新しいマグマに由来する物質が噴火が始まった当初よりも増えていることが分かり、気象台はこれまでより地下のマグマの影響が強くなっている可能性を示しているとしています。
 気象台は今後、本格的なマグマ噴火に移行すると、大量の降灰や溶岩流の発生などを伴う噴火が想定されるとしていて、噴火警戒レベル3の火口周辺警報を継続して、火口からおおむね3キロの範囲では噴火に伴う大きな噴石に、おおむね2キロの範囲では火砕流に警戒するよう呼びかけています。
 また、爆発的な噴火に伴う「空振」=空気の振動で窓ガラスが割れるおそれもあるとして、注意を呼びかけています。

 専門家 マグマ噴火が起きる可能性 指摘

 新燃岳では、7月3日の噴火で噴煙が最も高い時で火口から5000メートル上がるなど、活発な火山活動が続いています。
 また、産業技術総合研究所が火山灰を分析した結果、7月になって、新しいマグマに由来する物質が増えていることもわかりました。
 こうしたことについて、新燃岳の火山活動に詳しい東京大学地震研究所の大湊隆雄 教授は、マグマがより浅い場所に近づきつつあることを示していると分析しています。
 マグマから火山ガスが次々と抜けているため古い岩などを吹き飛ばし、多量の火山灰を降らせていることにつながっているということです。
 今後の見通しについて大湊教授は、現時点の地殻変動のデータからは地下深くから浅い場所へのマグマの供給はないと考えられるものの、今後再開すれば、マグマが直接噴き出すマグマ噴火が起きる可能性があるとしています。
 その場合、溶岩が火口に出てくることや大きな噴石を周囲数キロに飛ばすような爆発的な噴火が起きることもあると指摘しています。
 大湊教授は、「火山灰をだらだらと出すような噴火が長引くと警戒感が弱まるかもしれないが深い部分のマグマの蓄積が続いているかぎりは、2011年や2018年クラスの噴火はいつでも起こりうると考えて警戒する必要がある」と呼びかけています。

 用水路の水が濁り 送水を停止 コメの生育への影響に懸念

 9日 霧島 田口地区

 新燃岳の活発な噴火活動で、地元の農業にも影響が出ています。
 鹿児島県霧島市の田口地区では、近くを流れる霧島川から農業用水を引いて、50戸の農家に送っています。
 用水路を管理する組合によりますと、川の源流は新燃岳のふもとにあり、7月から水が灰で濁り始めたということです。
 特に、7月4日の午後激しい雨が降ったあとは濁りが激しくなり、水田への送水を止めました。
 その後、濁りがある程度収まり、6日には送水を再開しましたが、灰でパイプが詰まることも懸念しているということです。
 前田水利組合の森正幸組合長は、「大雨が降ったときにはセメントを溶かしたような水でとても心配しました。また雨が降ったときに影響がないか心配です」と話していました。

 10日 田口地区

 森組合長によりますと、10日も市内で雨が降り、午後3時すぎに用水路の水が再び濁ったのを確認したということです。
 このため、組合はすぐに水田への送水を止めたということです。

山田久治氏

 用水路の水を使って、コメの栽培を行う山田久治さんによりますと、灰が多く混じった水を水田に入れると、根に空気が入らず稲の生育への影響が懸念されるということです。
 これから穂が出る時期になるとさらに水が必要になるため、山田さんは、「灰がひどいときは水を止めて影響がでないようにしています。なるべく噴火はしてほしくないです」と話していました。

 茶産地 降灰への対策に苦労 生育・品質には影響なし

10日 霧島

 茶の栽培が盛んな鹿児島県霧島市では、生産者たちが対策を進めています。
 このうち今吉耕己さんの畑では、火山灰対策としてスプリンクラーで水をまく対応をとっています。
 また、茶葉の摘み取りを行う機械の前に回転するブラシを取り付けて、葉についた灰をできる限り取り除いているということです。
 それでも、茶葉を水につけると灰が残っているのがわかるということで、製茶の前には葉を洗う専用の機械を稼働させています。
 今吉さんによりますと、降灰によって茶葉の生育や品質には影響はないということです。
 今吉さんは、「葉の洗浄にとても苦労しています。自然災害なのでどうしようもなく、機械でやっていくしかないと思っています。噴火が収まることを願うばかりです」と話していました。

 温泉地の一部でキャンセル相次ぐ 割引プラン始める旅館も

「おりはし旅館」

 新燃岳の噴火を受けて、鹿児島空港を発着する便に欠航が相次いだほか、霧島市の観光施設が臨時休業するなどさまざまな影響が広がっています。
 一部の宿泊施設には予約のキャンセルも出ていて、このうち、新燃岳からおよそ16キロ離れた、霧島市牧園町にある老舗旅館「おりはし旅館」では、7月4日から6日までに入っていた予約のおよそ2割がキャンセルになりました。
 このため、「降灰」の影響を克服しようと、「克ハイ!プラン」と銘打って1泊1人あたり最大で5500円割り引くプランを始めました。

焼酎

 このプランでは夕食の時間に灰が降った場合は地元の焼酎を飲み放題で提供するということです。
 旅館では、観光客を呼び込んで地域全体を活性化したいとしています。
 旅館の有馬博明 副社長は、「ピンチをチャンスに変える取り組みが大切だと考えています。灰は降らない方がいいですが、降ったとしても霧島市の観光や温泉を楽しんでいただけたらと思います」と話していました。
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