[2025_06_09_01]2025/6/6東電株主代表訴訟高裁判決がもたらすものは何か 原発再稼働を推進する国策におもねった判決だ 1995年1月17日阪神淡路大震災…原発が地震に遭遇する、具体的な危険性を考えないとやばい…この時点から始まり 2007年中越沖地震によって東電柏崎刈羽原発は日本で初めて 原発が地震の直撃を受けて全停止 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2025年6月9日)
 
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2025/6/6東電株主代表訴訟高裁判決がもたらすものは何か 原発再稼働を推進する国策におもねった判決だ 1995年1月17日阪神淡路大震災…原発が地震に遭遇する、具体的な危険性を考えないとやばい…この時点から始まり 2007年中越沖地震によって東電柏崎刈羽原発は日本で初めて 原発が地震の直撃を受けて全停止 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

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 6月6日の株主代表訴訟高裁判決。既に報道等で、この判決について様々な論説が出されています。
 概ね、判決に批判的なものが多いように感じますが、この判決の背景にある問題について深掘りされているものは少ないようです。

◎2011年に至るまでに震災の結果は決していた

 この裁判、「3.11」から始まるのではありません。
 1995年の阪神淡路大震災による甚大な被害がパラダイムシフト(*1)ともいえる状況の変化をもたらしていました。
 その後、地震と津波に対して、国と事業者が取り組んできたこと。
 その全てが「3.11」に繋がっていきます。

 勝俣恒久元会長、清水正孝元社長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長、小森明生元常務の5人が原子力部門と経営に責任を有していた時期に、東電は世界で初めて原発が地震に遭遇し、大破する経験をしました。
 また、原発から遠くない地点、日本海中部地震(*2)と北海道南西沖地震(*3)による津波災害を目の当たりにしました。

 地震や津波の発生予想が出来ないことは、当時も今も変わりません。
 だからこそ、「起きるはずがない」「調査は十分してきた」という予断を持ってはならないことは、原発を運転する責任者には肝に銘じるべきことでした。
 いま、判決文についての分析を進めていますが、その前に、判決を聞いた直後に感じたことを述べておきます。
 当日午後、弁護士会館講堂で報告集会がありました。
 その場で話した内容を書き起こしたものです。
 当時の感情が直接表現されているので、言い回しで分かりにくい点や正確ではないところもありますが、そのままスクリプト(原稿)を掲載します。

 6月6日報告集会で私が語ったこと

◎はじめに

 結局、この判決は、国の長期評価をもって、東電が地震・津波対策をする公的義務があるのかないのか、さらに切迫した津波の襲来を予見できたかどうか、そこのほんの入り口の一点だけで、それが成立しなければあと全部責任がない、という実にわかりやすいけれど、「そんな馬鹿な」というストーリーになっていました。

 かつ一番最後に、木納裁判長は、『でもこれは東電の話だけで、今後、もし過酷事故が起きるとしたら、こんなんじゃすみませんよ』という趣旨のことを、付け足しといいますか、そこのところだけ、大きな声で読み上げていたことが印象に残ります。結局「これで許してね」と言わんばかりのそんな判決だったのかな。

 結局のところ、2011年の津波・地震が襲来するまでの間に、東京電力は本当に予見もできなければ切迫していることも気が付かず漫然と過ごすことができるような社会情勢だったのか。

◎1995年阪神淡路大震災から始まっていた「3.11」への道

 皆さん思い返してください。
 1995年、阪神淡路大震災が1月17日ですね。これによって6600人以上の人たちが亡くなるという未曽有の大災害に見舞われました。
 そこには原発はなかったのだけれども、その地震動は、岩盤の上に立っていたとされる海洋気象台の地下の地震計が800ガルを超えたんです。

 その瞬間、全国の原発がすべて、「やばい!」という状況に追い詰められました。
 なぜならばその時点で基準地震動、当時はS1、S2とか言っていましたけど、そんな800ガルなんて想定した原発なんてひとつもなかったからです。浜岡すら当時650ガルですよ。
 で、その時点から始まるのです。

 この国において原発が地震に遭遇する、具体的な危険性を考えないとやばいぞ、という話が、その時点から始まってるんですよ。1995年という。
 そして2006年までの間に、耐震設計審査指針を見直すために、当時は、考えられもしなかった、原発に批判的な地震学者がその会合に参加して、原発は危険であるということを堂々と国の審議会で述べる、そういう事態になっていたのです。

 さらにその後に、東電の福島第一・第二、柏崎刈羽の原発の周辺にある活断層が大きな地震、津波を起こす可能性があるという地震学者、津波学者、変動地形学の学者さんが、次々と論文を発表する時代だったんですよ。
 そのこともあり、さらに2007年、中越沖地震によって東電は、日本で初めて原発が地震の直撃を受けて全停止するとともに、冷温停止ができるかという瀬戸際に追い詰められたんです。
 それが、東京電力という会社だったのです。

◎取締役に切迫感がないなど、およそあり得ない

 切迫性がないとか、具体的な危険性を予見できなかったとか、そんなレベルではありません。
 中越沖地震では、もしあの時に、冷温停止に失敗していたら、福島第一の前に柏崎刈羽原発がメルトダウンしていました。

 そのような危機に見舞われていた東京電力で、さらに日本海溝沿いで大きな地震が起き、地震だけではなくて津波も襲ってくるということを警告されたら、普通常識のある人間ならば、中越沖地震の柏崎刈羽が頭をよぎるでしょう。
 それ、自分のことでしたからね。

 当時武藤さんだって、他の役員だって、責任ある立場にいたんです。
 だからこそ、何とかしなくちゃいけないと、考えなくちゃいけないし、当時の吉田所長も東電内で、柏崎刈羽原発の後始末をさせられていた原子力管理部だったんです。
 そういう人たちがよってたかって、福島第一原発に津波が襲ってくるまで漫然と過ごしていられると本気で考えていたんですか?

◎東電経営破綻目前で津波対策を先送りしたのは経営判断

 そうではなくて、本当は地震や津波が怖いけれども、それに勝る経営破綻の寸前にあるから、何とかしなくちゃいけないのはどちらかって、そっちの方だと、銀行団に説明もしなくちゃいけない、明日になってお金がないかもしれない、2年連続赤字(*4)ですよ。
 その時点では、とてもじゃないですけど国も原発事故の後に交付国債発行するなんて、そういう今は非常にお優しい国になってしまいましたが、当時は東京電力の経営に対しても、厳しい姿勢を示していたんです。

 したがって、東電はその時点で財政破綻も含めて、経営の危機と、地震と津波の危機の両挟みになっていて、さあどっちをとるか、そんな判断をしたわけです。
 とてもじゃないですけど、具体的に切迫する危険性がなかったから会議したのではありません。

 それよりも、経営破綻寸前というところで原発を止めると電力を他から調達しなくちゃならなくなり、景気も後退していて高い電力を売ることができない。
 そういう経営状態の中で、原発の津波対策を思いっきり先送りしてしまったんです。

 そのことに全く触れずに、中越沖地震のことも知らないような、そういう判決を書かれたのでは、私はこの東京電力に40年近くかかわっていますけれども、それは歴史を知らなすぎでしょうと言わざるをえません。

◎「3.11」直前に似てきた東電の経営

 今の状況は、「3.11」前の状況と似ています。東電は経営破綻寸前です。
 そのような状況の中で、今回の判決が出された。
 それはどんな意味をもつのか。
 問いかけられているのは、今回の判決を出した判事たちであり、その判決を受け取った日本社会の私たちなのだと思います。

◎終わりに

 この先もコメントは続きますが、繰り返しなどがありますので、スクリプトの紹介はこれで終わります。
 なお、TBSの報道ステーションで私の発言部分が流れていましたが、部分でしたから、全文を紹介しておきました。

 この判決は、たった一点を認めれば逆転します。
 それは「予見可能性」です。
 大枠として、取締役の主観でしかないことを基礎に、責任がないという結論に導くために書かれています。
 これは、現在14基、今後も柏崎刈羽原発を含め続々と再稼働させる国の計画、国策に干渉しない判決にしなければならないからです。
 原発裁判はいま、国策対市民の構図になっています。
 それを打ち破らなければ、次の事故は止められません。

〔注〕
*1:パラダイムシフトとは、ある分野において、従来当たり前とされていた考え方や価値観が根本的に変化することを指す。
*2:日本海中部地震・1983年5月26日秋田県能代市西方沖で発生し、地震。マグニチュード7.7、地震と同時に津波が発生し、多くの死者が出た。
*3:北海道南西沖地震・1993年7月12日北海道奥尻島沖で発生した地震。マグニチュード7.8、日本海側で発生した地震としては近代最大規模。奥尻島では最大29mの津波が襲い、甚大な被害をもたらした。
*4:東電決算説明会資料より
   2008年度:経常損失 47億円
   2009年度:経常損失 840億円
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