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[2025_05_04_01]フィンランドが世界に先駆けて進める、核廃棄物の「地下封印」計画(WIRED2025年5月4日) | ![]() |
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04:00 2025年3月、使用済み核燃料を1万年以上眠らせるための計画が、ついに動き出した。フィンランドは、世界初となる放射性廃棄物の恒久地下貯蔵施設「オンカロ」で、初の封入実験を成功させた。 1950年代に原子力の利用が始まって以来、世界31カ国の400基を超える原子炉から排出された使用済み核燃料の総重量はおよそ43万メートルトンに上る。しかし、その処分をめぐる恒久的な解決策はいまだに確立されていない。使用済み核燃料から再利用可能な物質(ウラン・プルトニウムなど)を抽出し、新たに核燃料として原子力発電に再利用する取り組みが、一部の国で進められている。国際原子力機関(IAEA)の推計によると、使用済み核燃料の約30%が再処理されているという。しかし、残りの70%ほどは最終的な行き先が未定のまま、一時的な保管場所に「仮置き」されている。 いまや多くの国々がエネルギー生産の脱炭素化を目指している。テック業界は、膨大な電力を消費する人工知能(AI)システムを動かせる電源供給手段を模索している。こうした背景のもと、原子力産業は再興の兆しを見せており、それに伴い核廃棄物の処分問題も一層の緊急性を帯びている。 使用済み核燃料を封じ込める施設 最善の解決策は、使用済み燃料を数千年にわたり安全に封じ込めておける地下施設をつくることだろう。使用済み燃料は1万年以上もの間、人類の健康を大きく脅かし、数百万年にわたり放射性を保ち続ける。しかし、この種の施設は新規に建設する必要があり、進行中の計画はいくつかあるものの、いずれも完成には至っていない。この建設競争の先頭を走るのが、掘削工事を完了し、貯蔵施設の建設に必要な地下空間を確保しているフィンランドだ。 フィンランド初の封入プラントは、首都ヘルシンキから車で約3時間の西海岸地域に位置し、現在建設が進められている。「オンカロ(Onkalo)」と呼ばれるこの施設は、国内の5基の原子炉から排出される使用済み燃料を受け入れる。5基のうち3基は同じ西海岸のオルキルオト島、ほかの2基は南東部のロヴーサにある。オンカロの建設を請け負うのは、使用済み核燃料の恒久的な貯蔵手段を探ることを目的に、国内の原子力発電企業2社が1995年に共同設立したフィンランド企業のPosiva Oyだ。 実験は、フィンランド西海岸地域の深さ430mの岩盤で行われている。廃棄物貯蔵の手順はこうだ。使用済み燃料棒を銅製の容器に詰め、花崗岩でできた地下貯蔵施設内の壁に掘られた穴にはめ込んだ後、ベントナイトという柔らかく可塑性のある粘土で封じられる。ベントナイトは容器を外界から遮断するとともに、基盤岩のわずかな動きに対する緩衝材の役割を果たす。 3月中旬、オンカロの貯蔵プロセスを検証する最初の試みとして、地上の臨時施設で5台の試験用コンテナを非放射性物質で満たした後に密閉し、地下に運んで全長70mのトンネル内に収蔵する実験が行なわれた。ダミー物質を使ったこの実験の成功により、フィンランドは運用可能な深地層処分場の建造における世界的競争で、先頭に立つこととなった。 オンカロの建設には現時点で9億ユーロ(約1,470億円)の経費が投じられ、プロジェクトの完了までにさらに40億ユーロ(約6,530億円)の出費が予想されている。こうして着工を迎えるまでには、貯蔵施設に最適な建設地を探す数十年に及ぶ調査の日々と、さまざまな許可と承認を待つ何年もの歳月があった。いまだにプロジェクトの実現を疑う人もいれば、計画の中止を願う人もいる。地元住民のなかには、身近な場所に核廃棄物が保管されることを嫌い、計画に反対する人もいる。Posiva Oyが容易に建設を許可されたと考え、戸惑いを示す人も多い。また研究者からも、貯蔵用コンテナ、特に銅製容器の腐食の可能性を懸念する声が上がっている。 スウェーデン王立工科大学(KTH)の教授で腐食科学を専門とするジンシャン・パンは、地下水に含まれる硫化物が、使用済み燃料の容器に使われる銅を腐食させる危険に関する共同研究論文を発表している。そのなかでパンは、「貯蔵中に銅の表面に形成される被膜の特性や化学作用」について「さらなる研究が不可欠だ」と指摘している。 フィンランドに続く国々 Posiva Oyが貯蔵施設の建設と実用化を世界で最初に達成することは間違いなさそうだが、ほかにもこの流れを追う国は多い。隣国スウェーデンも、自国で発生する使用済み核燃料を最大12,000メートルトンまで収容可能な貯蔵施設の着工に向けて準備を進めている。最終的に深さ500m、全長60km超の地下トンネルが完成する予定だ。この大規模工事は40年前から計画されており、建設に必要な環境関連の承認が数カ月前に下りたばかりだという。建設作業は今後10年以内に開始され、2080年代まで続く予定だ。スウェーデンのNGO「原子力廃棄物審査事務局(Office for Nuclear Waste Review)」による抗議活動によって、進捗に遅延や中断が生じる可能性もあるが、順調に進めば地下貯蔵空間の拡張が段階的に進行することになる。ただし、このスウェーデンの計画にも、フィンランドと同様に、銅製キャニスターの腐食によって放射性物質が地下水に漏出するリスクに対する懸念がつきまとう。 大西洋を挟んだカナダでも、放射性廃棄物の地層処分施設の建設計画が進められている。施設自体はまだ存在しないが、建設に向けた道筋には、少なくとも法律上の明確な障壁は見当たらない。14年間にわたる対話と議論を経て、関係機関と地域住民は、先住民コミュニティの一つであるワビグーン湖オジブウェイ・ネーションおよびオンタリオ州イグナス郡区を建設候補地として共同で選定した。両コミュニティはいずれも、このプロジェクトを投資誘致および雇用創出の機会ととらえ、前向きに受け入れている。 また、フランスとスイスがそれぞれ取り組むプロジェクトも、官僚主義的な障壁の克服という問題を抱えながらも少しずつ進行している。フランス北東部のムーズ県では、「Ciige!o」と呼ばれる深地層処分施設の建設プロジェクトに関し、安全上の問題がないと評価されたことから、2027年に実地調査を開始する運びとなった。施設の運営機関となるフランス放射性廃棄物管理庁(ANDRA)は、気候変動が地上の建造物に及ぼす潜在的な影響を十分に考慮することを条件に、計画の続行を許可されている。 一方、スイスの国家機関である放射性廃棄物管理協働組合(Nagra)は、貯蔵施設の建設地を決めるまでに14年の歳月を要した。候補地として選ばれたのは、チューリッヒ北部のノルドリッヒ・レーゲルンだ。この一帯が放射性物質の長期保管に最適な、非常に密度の高いオパリナス粘土に富む地質であることが選定の理由だ。フィンランドの施設建設地も、土壌にこの物質を豊富に含んでいる。2030年ごろに予定されている国民投票によって最終的に承認された場合、2060年までに稼働を開始する見込みだ。 またイタリアでは、国内の51カ所が核廃棄物貯蔵施設の建設候補地として検討されている。この計画は2015年に立案され、2023年12月に公にされた。その後、イタリア政府は新たな候補地を募るため、申請手続きの再開を決定している。当面、同国内の放射性廃棄物は、廃炉となった原子力発電所や原子力研究施設、核医学施設、原子力産業施設といった一時的な保管場所に留め置かれることになる。 (Originally published on wired.it, translated by Mitsuko Saeki, edited by Mamiko Nakano) |
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