[2025_03_06_03]『避難所』はなぜ変わらないままなのか…これまで声を上げられなかったこと 震災14年(宮城)(みやぎテレビ2025年3月6日)
 
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『避難所』はなぜ変わらないままなのか…これまで声を上げられなかったこと 震災14年(宮城)

 19:39
 東日本大震災から14年、避難所について取り上げます。
 災害が起きるたび、その課題が指摘されるなか、なぜ避難所は変わらないままなのかー。
 課題の中には、これまで声を上げられないできた実態もありました。
 仙台市宮城野区岩切の若宮公民館です。

 岩切地区で暮らす菅野澄枝さん
 「全然指定避難所ではないし、物資もないし適している状況ではなかったけど、その時はもうそんなこと考えている余裕はなくて…」
 この地域で暮らす菅野澄枝さん(56)です。
 14年前、津波の被害はなかったものの、地震による家屋被害が大きかったこの地域。
 震災直後からこの公民館は“私設”の避難所となり、近所に住む菅野さんは3日間 運営に参加しました。

 菅野澄枝さん
 「(Qここに何人くらい入られたんですか?)正式な数とか名簿を作るゆとりがなかったんですよ。でも、最大50人くらいぎゅぎゅっとなってた印象があるんですけどね」

 これは2011年3月11日当日の映像です。
 暗い体育館で、明かりを兼ねたストーブを中心に身を寄せ合う人たち。
 宮城県庁のロビーにも、避難者が身を寄せました。

 県内で避難を強いられた人は32万人以上にのぼり、県の調査によりますと、最大1323か所設置された避難所のうちその4割は自治体が管理するものではない私設≠フ避難所でした。

 避難所の課題…声をあげられない

 地域の避難所が閉鎖されてからは、中学校の指定避難所に携わったという菅野さん。
 規模が大きくなったことで、うまくいかないことも増えたと言います
 菅野澄枝さん
 「例えば、物資を分けることとかに対しても、女性だからしてほしい配慮ってあるじゃないですか。それこそ、若い女の子が自分のおなかが痛いとか、女の子特有の痛みの時にわかってもらいたいとか。それはわがままではないわけですよね。そこになにか足りないものがあったから、揉め事があった時に、本当に大事な仲間を守れなかった。決断できるほどの知識がなかったから」

 段ボールの仕切り1つ、長く続いた避難所生活は様々な問題を浮き彫りにしました。
 震災当時・避難所にいた人
 「洗濯もできなくて最初は捨てる状態」
 「衛生面、虫が発生したとか。夜、落ち着いて眠れない、疲れが蓄積するんじゃないか」

 日本の避難所は…先進国で一番低い部類

 震災の教訓は、その後にいかされたのかー。
 避難生活学会の代表理事を務める石巻赤十字病院の植田信策副院長は、日本の避難所が改善されないことに危機感を持っています。
 植田信策医師
 「先進国の中では、一番低い部類に入っちゃうんじゃないでしょうか。
 一つには国のルールが定まっていない。経験度の低い人たちが、避難所を運営しなきゃいけない状況に突然なるわけですから、経験のある人たちが指導できる仕組みが大切」
 避難所の環境は、命に関わることもあります。
 震災で災害関連死と認定された方を対象に、原因を探った国の調査では、避難所などでの肉体・精神的苦痛を挙げる割合が最も高く、その後の熊本地震や能登半島地震では災害関連死の人数が直接死を超えました。

 一方、避難所の課題の中には、これまで大きく取り上げられて来なかった実態もありました。
 「避難所で、夜になると男の人が毛布の中に入ってくる」
 「授乳しているのを、男性にじっと見られる」
 「更衣室をダンボールで作ったところ、上からのぞかれた」

 これは、震災から半年後、被災地で暮らすおよそ900人を対象に行ったアンケートの内容です。
 調査を行ったウィメンズネットこうべの正井禮子さん(75)。
 こうした被害を訴える声は、30年前の阪神・淡路大震災の頃からあったといいます。
 正井禮子さん
 「私が一番最初に聞いた話は、避難所で女性が性被害にあったと。県の職員が呼ばれてすぐかけつけたら、避難所の責任者の男性が、加害者も被災者やで大目に見たれっていわれて」
 その16年後に起きた東日本大震災。
 正井さんの調査では、女性や子どもに対する暴力について「実際に体験した」「目撃した」「被害者本人やその家族などから 相談を受けた」と回答した人は、82人にのぼりました。

 なぜ、避難環境が改善されないのか?

 防災に詳しい東北福祉大学の阿部利江講師は「避難所のまとめ役」にその要因があると指摘します。
 東北福祉大学・阿部利江講師
 「運営者は男性が多い場合が多いので、なかなか女性の声がそこに反映されていかないというのは見受けられる。誰かと比較をしてしまうと、自分はまだ大丈夫という思いをする方がすごく多くいると思うのですが、そこで我慢するのではなくて、自分の困っていることを誰かに相談するっていうところから始まってもいいのかなと」

 国は、2020年「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」を策定。
 自治体の防災関連の職員の女性の比率を上げる、女性リーダーの育成を推進することを示しています。
 男女平等を目指し講演会などを行うNPO法人・イコールネット仙台の常務理事 宗片恵美子さん(75)です。
 2013年各地で支援に携わりながら様々な声を聞いた宗片さんは、1つの取り組みを始めます。

 女性リーダー、育成へ

 宗片恵美子さん
 「いろんな各場面で力をつけた女性たちが、地域の防災リーダー として力を発揮しなければと思って講座をはじめた」
 「女性のための防災リーダー」と名付けられた講座では、地域の防災計画や避難所に必要なものを学び、その後に地域で実践することを義務づけています。
 仙台市宮城野区岩切に住む菅野さんも、女性防災リーダー講座に参加した1人です。
 地域で避難訓練を実施するほか、2019年の東日本台風の際 岩切地区で水害が起きた時は実際に避難所のまとめ役として運営に携わりました。

 菅野澄枝さん
 「私たちを、そういう災害が起きた時に動く人間だと思ってくださる方も増えています。あの時よりも人権を守れる弱者の方の立場になれる。何よりも命を守れる。そういうような避難所でありたいし、そこに私たちがいたいと思います」
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