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[2025_01_25_02]ありえない場所に酸素があった 「暗黒酸素」の謎解明へ、プロジェクト始動(CNN2025年1月25日) | ![]() |
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参照元
17:10 (CNN) 光が届かない太平洋の深海の底で、酸素を生成しているらしい金属岩が見つかった――。昨年7月のその発表は、学会を揺るがした。 金属を豊富に含むジャガイモほどの大きさの岩石塊は、主にクラリオン・クリッパートン海域の深さ4000メートルの海底で見つかった。当初の研究では、この岩石塊が電荷を放出して電気分解によって海水を酸素と水素に分解していると推定。前代未聞のこの自然現象は、酸素が太陽光からの光合成によってのみ作られるという概念を覆すものだった。 この発見にかかわった英スコットランド海洋科学協会のアンドルー・スウィートマン教授は、「暗黒酸素」の生成について解明する3年がかりの研究プロジェクトに着手した。研究チームは水深1万1000メートルまで届くセンサーを装備した特注の装置を使用。日本財団は17日、この研究プロジェクトに約4億4000万円を拠出すると発表した。 暗黒酸素の発見は、深海に関してほとんど何も分かっていない現状を物語る。特にクラリオン・クリッパートン海域は、岩石塊に含まれるレアメタル採掘の目的で探査が行われている。岩石塊は何百万年もかかって形成され、レアメタルは環境に優しい新技術において重要な役割を果たす。 「暗黒酸素の発見は、深海、そして恐らく地球上の生命についての我々の認識におけるパラダイムシフトだった。だが答えよりも投げかけられた疑問の方が多かった」とスウィートマン氏は述べ「新たな研究でそうした科学的疑問を解明したい」と意欲を示す。 スウィートマン氏によると、プロジェクトの最初の目標は、岩石塊が見つかった場所以外のクラリオン・クリッパートン海域でも暗黒酸素の生成が再現できるかどうかを調べ、酸素がどう生成されるかを解き明かすことにある。 あるはずのない場所に酸素が 酸素は太陽光の継続的なエネルギーがなければ生成は難しい。ただし、光の届かない予想外の場所で酸素分子が見つかったという研究報告はほかにもある。暗黒酸素の生成は、実はもっと幅広く起きている現象で、これまで見過ごされてきただけなのかもしれないとスウィートマン氏は言う。 米海洋生物学研究所のエミール・ラフ氏のチームが2023年6月に発表した研究結果によると、カナダ・アルバータ州では草原の数十から数100メートル地底で採取した淡水の標本から酸素が検出された。暗黒酸素は場合によっては4万年以上もの間、地上の大気から隔絶されていた。 酸素は例えば樹木や植物によって継続的に環境に加えられなければ、いずれは消滅する。 「4万年も3万年も(地表のプロセスから切り離されて)、酸素が残っている理由は考えられない。酸素は電子受容体なので、普通は化学的に酸化するか、微生物を通じて酸化する」「では、なぜそこに酸素があったのか」とラフ氏は問いかける。 スウィートマン氏と同様に、ラフ氏も最初は、14の地下水帯水層から採取した標本が大気中の酸素に汚染されたのだろうと考えた。標本の年代を考えると、酸素はとうに他の物質と反応して消えているはずだった。 辛抱強く研究室と現場で調査を続けた結果、ラフ氏は最終的に、水中の微生物が酸素を生成していることを発見した。この微生物は、光がなくても分子を生成できる仕組みを進化させていたらしい。 この微生物は、一連の化学反応によって、亜硝酸塩と呼ばれる可溶性化合物を分解し、不均化と呼ばれるプロセスで酸素分子を生成していた。この微生物はさらに、その酸素を使って水中のメタンを消費してエネルギーとする能力も備えていた。 生成された酸素は、地下水の中で酸素を必要とする他の微生物を支えるのにも十分な量だった。 「自然は驚きに満ちている」とラフ氏は言う。「『あり得ない』と言われながら、後にあり得なくはなかったと判明することはあまりに多い」とラフ氏は話す。 暗黒酸素をさらに詳しく調べるため、ラフ氏のチームは8月に南アフリカの鉱山の3キロ地底へ足を運び、岩盤の中に12億年閉じこめられていた水の標本を採取した。 この鉱山の水に酸素分子が含まれることは以前から分かっていたが、それがどう生成されるのかは分かっていなかった。ラフ氏らが採取した標本はまだ調べている段階だが、酸素分子の形成については二つの仮説を立てている。 その一つは、放射線によって水分子が分解される放射線分解説。この鉱山では金と放射性金属のウランを採掘している。あるいは、ラフ氏がカナダの地下水で発見したのと同じように、微生物が酸素を生成している可能性も考えられる。 スウィートマン氏は17日、海底での暗黒酸素の生成に微生物反応がかかわっているかどうかの解明も目指すと語った。特に、岩石塊で酸素が生成される際に水素がどのように放出されるのか、深海で検出された微生物群のエネルギー源として水素が使われたのかどうかを探る意向だ。 ラフ氏は、スウィートマン氏など暗黒酸素を研究する科学者と協力して、海水の電気分解によって生成される酸素の化学的特徴が、微生物や放射線分解によって生成される酸素とどう違うのかを解明したいと話している。 NASAも関心 暗黒酸素の生成に関する研究には米航空宇宙局(NASA)も関心を示す。こうした研究は、太陽光が届かない地球以外の惑星で生命が維持できる可能性を探る役に立つかもしれない。 スウィートマン氏によると、NASAは土星の衛星エンケラドスと木星の衛星エウロパの強い重力下で酸素が生成されるために必要なエネルギー量を探る実験を行いたい意向だという。この二つの衛星は、生命の可能性を探る調査の目標とされている。 深海の採掘を行う企業は太陽光パネルや電気自動車のバッテリーなどに使う目的で、岩石塊に含まれるコバルト、ニッケル、銅、リチウム、マンガンの採掘を目指しており、中にはスウィートマン氏の研究を問題視する企業もある。 深海の採掘に対しては、海底の手つかずの環境に回復不可能なダメージを与えかねず、海洋が炭素を貯留する仕組みをかき乱して気候変動の原因となる可能性もあるとする批判もある。 ザ・メタルズ社は、スウィートマン氏の研究が発表された科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに反証の論文を提出したことを明らかにした。論文は査読が行われており、まだ発表されていないとしている。 スウィートマン氏はこうした批判のことは認識しており、査読誌を通じて返答すると説明。生態系の解明が進むまで、海底の資源開発は控えるのが賢明だとの見方を示した。 |
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KEY_WORD:暗黒酸素_: | ![]() |
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