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[2020_01_18_06]伊方差し止め 原発行政 司法が疑問 「活断層」新根拠に 安全への投資 回収困難(東奥日報2020年1月18日) | ![]() |
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広島高裁の17日の仮処分決定で運転で差し止められた四国電力伊方原発発3号機(愛媛県)。同原発を巡っては、各地の住民が仮処分を申請し、2017年にも同高裁が運転差し止めを決定している。今回再び、異なる判断を基に差し止めが命じられ、司法が原発行政に疑問符を突きつける事態が続いた。【松本光樹、宮川佐知子】
広島高裁は17年12月、広島、愛媛両県の住民が求めた仮処分の即時抗告審で、同年3月の広島地裁決定を覆し、原発の運転差し止めを命じる決定を出した。 今回の運転差し止めでは新たに敷地近くの活断層の調査の不十分さが根拠となった。この活断層は、国の機関や国土地理院、大学など各機関が「音波探査」で調査したものの、政府の地震調査委員会が「探査がなされていない。今後の詳細な調査が求められる」と評価していた。四電は同様の「海上音波探査」で調査したため、高裁は十分な調査と言えないと疑問視。この探査結果を基にした四電の申請を規制委が「問題ない」と判断したことも批判した。 阿蘇カルデラの噴火についても新たな判断が示された。「破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火を考慮すべきなのに、四電は降下火砕物の量を過小評価している」とし、過小評価を前提とした原子炉設置変更許可申請や原子力規制委の判断も不合理だと断じた。 火山については、17年の運転差し止め決定では破局的噴火が重視されている。原子力規制委の手引書「火山影響評価ガイド」を厳格に運用し、原発から半径1600キロ以内にある火山で噴火規模が想定できない場合は、過去最大の噴火を想定すべきだとした。約130キロ離れた阿蘇カルデラで約9万年前に破局的噴火が起きており、伊方原発まで火砕流が到達する可能性があるとして「立地不適」と判断。重大事故で住民の生命や身体への具体的危険があるため、運転を差し止める決定に至った。 その後、差し止めを覆した広島高裁の異議審決定(18年)は逆の判断をした。同ガイドについて「前提として、噴火の時期や程度が相当程度の正確さで予測できるとしており、不合理」と批判し、火山の噴火リスクについて「我が国の社会が自然災害に対する危険をどの程度まで容認するかという社会通念を基準として判断せざるを得ない」と説明。その結果、「阿蘇カルデラの破局的憤火は社会通年上、想定する必要がない」と結論づけた。 今回の差し止め決定も、同ガイドと破局的噴火については同じ考えだ。破局的噴火については「火砕流が原発に到達する可能性を否定できないからといって、それだけで立地不適とするのは社会通念に反する」とした上で、破局的噴火に準じる噴火について検討し、噴出量は四電の想定の約3〜5倍に上るとして「過小評価」と断定した。 石原和弘・京都大名誉教授(火山物理学)は「火山噴火の知見に基づいた妥当な決定。ガイドの妥当性に踏み込んだことは評価できるJと話す。噴火の時期や程度を予測できることを前提にしている点について、日本火山学会としても見直すべきだと指摘しているという。「現在の知見では噴火の前兆が早く分かったとしても数カ月前。『相当前』と言えるか疑問だし、そこから準備して備えられるのか」と説明する。 一方、原子力の専門家から反発の声も上がる。東京工業大の奈良林直特任教授(原子炉工学)は、「必要な安全対策は取られているのにきちんと理解されず、決定はひどい内容だ。国や原子力規制委は国民に対し、審査過程をきちんと説明する必要がある」と指摘する。 安全への投資 回収困難 「厳正な審査により世界最高基準をクリアしている。決定は到底承服できない」。伊方原発3号機の差し止め決定を受け、高松市内の四国電力本店で記者会見した西崎明文常務は、不満を述べた。 差し止め決定は、原発の安全対策やテロ対策施設の設置などに多額の投資をする電力会社に、司法判断一つで原発が停止に追い込まれ各リスクをあらためて認識させた。 日本原子力産業協会の調査によると、沖縄電力以外の電力11社が原発事業のために投じた設備投資や保守修繕などの「原子力関係支出高」は2017年度、福島第1原発事故直後の12年度から26%増えた。主に新規制基準に対応した安全対策工事費などが全体額を押し上げている。 四電は定期検査で3号機を20年3月まで停止する予定だったが、再稼働できない状況が続くと、20年度以降、代替運転の火力発電の燃料費などで1カ月あたり35億円程度の経費増となる見通しだ。別の大手電力の担当者は差し止め決定を受け、「運転期間が短くなればなるほど、安全対策などの投資を回収できなくなる。司法リスクで経営の予見性が低くなる現実を突きつけられた」と落胆した。 差し止めは原子力基幹電源に位置付ける政府のエネルギー政策の先行きにも影を落とす。政府のエネルギー基本計画では30年度に原発比率を20〜22%まで引き上げ、火力の比率を下げる目標を立てているが、これまでに再稼働できたのは伊方3号機を含めて全国で9基だけ。目標達成には全国の原発36基のうち30基程度の再稼働が必要で、今後10年間は毎年2基のペースで再稼働が必要となる。差し止めを受け梶山弘志経済産業相は記者団に「再稼働を進めていく方針に変わりはない」と強調したが、経産省のある幹部は「原発比率の目標達成はいばらの道だ」と本音を吐露する。【山口桂子、中津川甫】 伊方原発 四国電力が愛媛県伊方町に持つ計3基の加圧水型軽水炉。3号機(出力89万キロワット)は1994年に運転を始め、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル発電を行う。 |
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