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[2024_12_26_07]島根原発2号機が再稼働――間近に県庁、耐震補強が済んでいない橋、長い活断層――これでも住民は安全なのか 【地震大国日本の今】活断層への知見が進化しても対応改めぬ電力会社と自治体 添田孝史(JBpress2024年12月26日) | ![]() |
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参照元
04:00 中国電力島根原子力発電所2号機(松江市)が2024年12月7日に再稼働した。福島第一原発と同じ沸騰水型炉としては、前月に再稼働した東北電力女川原発に次ぐ2基目だ。島根原発は全国で唯一、県庁所在地に立地し、30キロ圏内には約45万人が暮らす。設計時に考慮されていなかった直近の活断層(M7.5)も問題視されている。 原発からわずか8.5kmに県庁 松江市の中心には、1611年築城の姿をそのまま残す松江城がそびえ、国宝5城の一つとして年間約35万人の観光客を惹きつけている。 松江城の天守から北西の方角を双眼鏡でのぞけば、島根原発の見学施設「島根原子力館」の三角屋根が見える。松江城から原発まではわずか8.5kmの距離だ。 福島第一原発の事故時、地震発生から15時間後には10km圏内の住民に避難指示が出され、26時間後に8.6km地点で毎時134マイクロシーベルトの放射線が検出されている*1。平常時3000倍以上にあたる。 *1 福島県 平成23年3月11日〜3月31日(東日本大震災発生以降)にモニタリングポストで測定された空間線量率等の測定結果について 島根県庁は松江城三の丸跡にあり、原子力災害の際に対応拠点となる。全国の県庁で唯一、放射線被曝を減らす設備を備えた建物だ。 松江城と島根県庁(筆者撮影) 東電事故の際、原発から約5kmにある現地対策本部の建物(オフサイトセンター)は室内でも放射線レベルが高くなって使えなくなり避難した。それを教訓に、2015年に放射線防護設備を導入し、7日間籠城できる食料やトイレなども備えている。 建物の間をつなぐ場所に放射線防護の機器が収められている(写真中央部分。筆者撮影) 災害対策本部が置かれる県庁6階と知事室などがある3階は部屋の空気圧を高めて外部から放射性物質が入らないようにできる。原発事故で住民の避難が必要になった際には、県庁で働く2千数百人の職員のうち約600人は災対本部に残り、30キロ圏内の最後の一人が逃げ終えるまで対応するのだという。 県庁6階の操作盤の赤いスイッチを押すと放射線防護装置が動き出す(筆者撮影) しかし、いざというとき本部機能を維持できるかは疑わしい。築65年を超えた県庁舎は「地方におけるモダニズム庁舎建築の好例」として、国の登録有形文化財に指定されている。細い柱、大きな窓が並ぶ外観は優美だが壁は少ない。1995年に耐震診断をしたところ現行耐震基準の半分程度の強度しかなかった。2004年と2013年に筋交いを入れるなどの耐震補強をして現行基準程度は確保している。ただし現行基準は、中にいる人の命を確保する水準で、使い続けられる性能は保証していない。 国土交通省は、災害対策を指揮する重要施設に「大地震後も構造体の補修をすることなく使用できる耐震強度(一般の耐震基準の1.5倍)」を求めているが*2、県庁舎はその水準に達していない。学校に求められる水準(同1.25倍)にも達していない。その強度で、気密性が要求される放射線防護ができるとは考えにくい。 *2 島根県庁は、Is値0.702を目標に補強されている。 (参考: 清瀬市HP〈国土交通省 官庁施設の総合耐震計画基準〉 ) 今年1月の能登半島地震では、志賀原発の周辺にある20の放射線防護施設のうち、6施設は揺れのため防護機能が使えなくなっている*3。 *3 内閣府(原子力防災担当) 令和6年能登半島地震に係る志賀地域における被災状況調査(令和6年4月版) 島根県は「仮に本庁舎が被害を受けたとしても、柱等を補修することで機能維持は可能。万が一、使えない状況となれば、代替施設への移転も含めた対応を検討する」と言う。しかし柱の補修はすぐにはできないだろう。災害直後、渋滞が起きたり避難路が使えなくなったりしている最中に、それも高い放射線量のもとで600人の本部機能をスムーズに移転できるとも思えない。 緊急輸送道路の橋、耐震化はこれから 松江城天守から南を見ると、宍道湖のほとりにある街の様子を一望できる。この城下町は、湿地や入江を約400年前の松江城築城時に埋め立てて造られた。橋と水面が織りなす水郷の風情は、遊覧船による堀川めぐりでも人気だが、災害時の弱点も示している。 松江市は、緊急輸送道路や想定緊急避難路になる23橋、高速道路をまたぐ3橋など計29の古い橋について、優先して耐震化を進める計画を昨年まとめた*4。しかし補強の計画が一つの橋で動き出したばかりで、完了したものは一つも無く、すべてが終わるめどはたっていない。市が管理する1220の橋全体では、築50年以上の古いものが52%を占める*5。 *4 松江市 橋梁耐震化計画について *5 松江市 橋梁長寿命化修繕計画 「構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態」と診断されているのに、修繕が進んでいない橋も約200ある。緊急輸送道路や想定緊急避難路だけでなく、各家庭からそこにつながる街中の小さな橋もあちこちで寸断される恐れがある。 県は「避難ルート上にある橋梁の耐震化や法面の危険個所の対策など道路防災対策を着実に進めている。使えない場合は、代替ルートで避難してもらう」と説明している。 「万全に調査」が簡単に覆されてきた電力会社の活断層への見解 大きな地震が起きない地域ならば、この程度の備えでも良いかもしれない。しかし県庁から5km北には、活断層「宍道断層」が東西に連なっている。 この活断層は、島根原発2号機からは約2kmしか離れていない。研究者の指摘にもかかわらず中国電力は「活断層ではない」として設計し、1989年に運転を始めた。98年になって「宍道断層は活断層で最長8km、最大M6.3の地震を起こす」と見解を変えた。県庁で記者会見した通商産業省(当時)の担当者は「実際はもっと短いが安全側に見て8km。これを超えることはない」と強調していた。 ところが2006年、そこまで延びていないと中国電力や国が主張していた場所で活断層が見つかった。「万全に調査したと言っていたのに、こんなに簡単に覆されるのか」と、現場を見て驚いたのを覚えている(写真)。中国電力は8km、10km、22kmと延長を繰り返し、現在は39km(M7.5)と想定している*6。 *6 中国電力 島根原子力発電所 基準地震動の策定について 2021年1月20日 島根原発周辺の活断層(中国電力の資料から) 能登半島地震の前、北陸電力が海底の音波探査データなどをもとに「最長96km。それ以上は連動しない」と予測していた活断層は、実際には約150kmも動き、北陸電力は178kmに想定を変えた*7。 *7 北陸電力 志賀原子力発電所2香炉の新規制基準適合性審査体制及び審査資料の作成状況等について 2024年11月6日 宍道断層も周辺の活断層と連動してさらに長く動き、より大きな地震を起こしても不思議ではない。 掘り起こされた宍道断層(筆者撮影) 楽観的な電力会社と自治体、避難も救援もできない現実 中国電力は、東電事故後に耐震補強を実施し、大きな揺れでも事故は起きないとしている。しかし運転開始から36年にもなる原発に、後付けの安全対策を施しても、活断層を想定していない設計の弱点を100%カバーできるわけではない。設計段階から耐震強度を上げ、各種の安全設備も備える新しい原発に比べるとリスクは大きい。 宍道断層が地震を起こしたら、約1万4000棟の建物が全半壊すると県は予測している*8。これは活断層の長さを22kmとして計算しており、39km、もしくはそれ以上の活断層が動けば被害は拡大する。 *8 島根県地域防災計画 震災対策編(2024年3月) 島根県地震・津波被害想定調査報告書(2018年3月) 地震と原発事故が同時に発生する原発震災では、避難や救援が難しくなる。東電事故では、津波の被害を受けた地域で、助けを求める声や物をたたいて居場所を知らせる音がしていたのに、被曝を避ける避難指示が出されたために捜索が中止され、結局、現地に入って捜索できたのは1カ月以上あとになったところがあった。能登半島地震でも原発30km圏内で、複数の橋が通行止めになって迂回路が無くなった地域や、土砂災害で孤立し、逃げることも救援に向かうことも困難な地域があった。 それでも島根原発を動かそうというのは「大きな地震は滅多に起きないから大丈夫」と、中国電力も地元自治体も楽観しているからだろう。 新潟県中越沖地震(2007年)で柏崎刈羽原発が震度7に襲われた後、東電は「何百年に一度というような大きな地震は続いては起きないだろう」と高をくくり、必要だとわかっていた福島第一原発の津波対策を先延ばしした。今の中国電力や自治体も、当時の東電と同じような思考に陥っているように見える。そして東電は4年後の2011年に大災害を引き起こした。 たとえ発生頻度は低くても、最低限必要な備えはすぐにやる。それが東電事故の教訓だ。再稼働するならば、少なくとも避難路の安全確保や、災害対応の司令塔になる県庁の耐震補強を終えてからにするべきだろう。 米ニューヨーク州のショアハム原発は1984年に完成したが、避難計画が承認されず、一度も営業運転されることなく廃炉された。島根原発30キロ圏内には体が不自由で避難に手助けが必要な高齢者らも推計約4万人いる。すべての人が安全に避難できる対策がとれないならば、原発を動かしてはいけない。 |
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