[2023_03_15_06]原発事故12年 新たな謎が(NHK2023年3月15日) |
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「謎だらけだ」 福島第一原発の1号機で、去年撮影された調査映像を見た専門家が口にしたことばだ。 2011年3月11日、巨大地震による津波に襲われた東京電力・福島第一原子力発電所。 3つの原子炉が次々にメルトダウンし、広範囲に放射性物質が飛散する世界最悪レベルの事故が起きた。 その事故から12年。廃炉のための調査が少しずつ進み、見えてきたのは想定外の現象だった。 事故検証に広い知見を ------------------------------------------------------ 去年10月、大阪大学に福島第一原発事故を検証する研究チームが発足した。 原発事故の検証はこれまで主に国や東京電力が行ってきたが、近年、原発内部の調査や映像の公開が徐々に進んできたことで、ようやく大学も参加することが可能になってきたという。 参加するのは、核燃料や土木、素材などさまざまな分野の専門家17人。 メンバーのひとり大石佑治准教授は、事故のメカニズムの解明により広い知見を提供したいと語る。 (大阪大学 大石佑治准教授) 大学はフットワークが軽いのがメリット。いろんな分野の人が集まって幅広い議論ができるのではないか。大学の立場からメカニズムの解明に貢献したい。 1号機内部調査 想定外の現象が ------------------------------------------------------ 研究チームが注目したのが、去年、1号機の内部調査でロボットが撮影した映像だ。 映っていたのは、原子炉を支える土台の一部が鉄筋を残してなくなっている様子。 専門家たちにとって想定外の現象だった。 1号機を再現したCG 黄色の部分:原子炉を支える土台 1号機では津波の直後から全ての電源が失われ、原子炉の冷却ができずに核燃料が溶け落ちるメルトダウンに至った。3つの原子炉の中で最も早く事態が進展していた。 従来はこの時、溶け落ちた高温の核燃料が土台の部分に広がり、それにともなって鉄筋やコンクリートも溶けたと考えられていた。 一部のコンクリートだけがなくなり、鉄筋が残ったままというのは何を示しているのか。 一部のコンクリートがなくなり、鉄筋がむき出し(撮影:IRID 日立GEニュークリア・エナジー) さらに、ほかにも想定していなかったものが見つかった。 テーブル状に張り出した白い堆積物だ。 もともとは存在しなかったものだが、原子炉を覆う容器の壁などに層のように発生していた。 どのようにできたか、わからないという。 テーブル状の堆積物(撮影:IRID 日立GEニュークリア・エナジー) (大石准教授) 従来だと非常に高温でコンクリートがどろどろに溶けていってしまうということだったが、どうもそんな様子が見えない。鉄筋も残っているし、テーブル状の堆積物も高温でコンクリートが溶けて出来たとはちょっと考えにくく、謎だらけ。 メカニズム解明へ 続く試行錯誤 ------------------------------------------------------ 研究チームはこうした謎の現象を解明し、事故の真相に迫ろうとしている。 そのために、まず取り組んだのが福島第一原発で使われていたコンクリートの再現だ。 コンクリートは原材料によって壊れ方などが異なるため、実際に福島県を訪れるなどして現地の砕石を入手した。 コンクリートの加熱実験 次に再現したコンクリートを使って、1号機内部と同じ現象がどうすれば起きるのか実験で調べる。 実験では、2000度を超える核燃料が溶け落ちた状況を想定し、再現したコンクリートが温度によってどう変化するかを調べた。 1000度までは形状を保ったが、1200度に熱するとコンクリートは溶ける結果に。 しかし、黒く溶け固まった状態で、原発内部で新たに見つかった白い構造物とは結びつかない。 加熱したコンクリートに力を加えると 一方、今回の検証では想定よりも低い温度でコンクリートが壊れた可能性が見えてきた。 300度や600度に加熱したコンクリートを圧縮して力を加えると、強度がもろくなっていることが確認できた。 さらに、この加熱したコンクリートを90度の水につけると、中の成分が周囲に溶け出すこともわかった。 これらの現象が原子炉の土台の壊れ方と関係しているのではないか。 ただ、これらの特性を明らかにしただけでは、テーブル状の堆積物の成因までは説明できないという。 研究チームのメンバー 大阪大学 牟田浩明教授 (大阪大学 牟田浩明教授) すごく粘度が高いものがどろっと出て上だけ固まったとか、シュークリームのように膨らんで残ったとか、特徴的な現象を考えないと説明できない。 事故から12年がたってもなお、新たな事実が次々に明らかになっている。 原発事故のとき内部で何が起きるのか。研究チームは一連のメカニズムを解明しようと、条件を変えて実験を繰り返している。 大石准教授は、検証を通して学ぶべきことは、まだ多く残されていると話す。 大阪大学 大石佑治准教授 (大石准教授) 事故でいったい何が起こったのかよくわからないというのは、今後の安全対策を考える上でもよろしくない。原子力に携わる身としては福島の事故、この解決に貢献しなければいけないと思っている。地道な作業になるが、いろいろと試行錯誤して続けていくしかない。 取材後記 ------------------------------------------------------ 12年という月日を経てもなお、新たな謎が見えてくることに全体像を把握することの難しさを感じる。 政府は、エネルギー危機や温暖化への対応を背景に原子力政策の方向性を大きく転換し、原発を最大限活用する方針を打ち出したが、このなかでは事故の反省と教訓を忘れず、安全性を最優先することが大前提だとしている。 さらなる安全性の向上を図る中で、実際に起きた事故から学ぶべきことは少なくないはずだ。 原発の活用を議論する上では、そのための検証が道半ばだという現実にも目を向ける必要がある。 ※福島第一原発の事故を検証する NHKスペシャル シリーズ「メルトダウン」File8 は3月18日(土)夜10時〜、19日(日)夜9時〜、二夜連続で放送予定です。 |
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