[2024_09_11_03]東京電力福島第1原発 デブリ取り出し着手 廃炉工程、最難関「第3期」へ(福島民報2024年9月11日)
 
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東京電力福島第1原発 デブリ取り出し着手 廃炉工程、最難関「第3期」へ

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 東京電力は10日午前7時20分、延期していた福島第1原発2号機からの溶融核燃料(デブリ)の取り出し作業に着手した。今後、数週間かけて3グラム以下のデブリを採取する。取り出しは廃炉の最難関とされる。放射性物質の種類や量を分析し、1〜3号機で合わせて880トンと推定されるデブリの本格的な取り出しにつなげる。原発事故発生から13年半となる中、廃炉は国や東電が定める工程表「中長期ロードマップ」の最終段階に当たる第3期に入った。

 東電によると、10日午前6時34分にデブリ取り出し着手に向けた作業を始めた。取り出しに使うパイプ型装置を原子炉格納容器の方向に押し込み、装置の先端が格納容器外側に設置した隔離弁を通過したことから「取り出し作業に着手した」と判断した。初日は隔離弁から約60センチの位置で停止させた。11日にさらに約2メートル30センチ押し込み、格納容器内部から1メートル手前で作業を終える予定。
 準備作業は8月22日に開始したが、取り出し装置の押し込み用パイプの取り付け手順を誤り、延期していた。東電は「単純作業の確認不足が原因だった」と説明。押し込み用パイプに目印となるカラーテープを巻くなど再発防止策を講じた。10日の作業には東電社員5人が立ち会った。

 作業員約60人が複数の班に分かれ、1日当たり2時間程度の作業で取り出し装置を格納容器内に伸ばし入れる。装置の先端に取り付けた「グリッパ」と呼ばれる金属製の爪で3グラム以下のデブリをつかみ取る。着手から回収までは最短で2週間を見込むが、「今回の反省を生かして丁寧に確認しながら進めるため、想定よりも長い時間がかかるとみられる」としている。採取後は専用容器に入れて茨城県の日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗研究所に輸送し、性状を調べる。
 東電は当初、2号機のデブリ取り出しを2021(令和3)年内に始める計画だったが、取り出し装置の改良などで3回延期し、約3年遅れとなった。

 ■高線量下作業 技術開発先行き不透明

 東電は極めて高い放射線を出すデブリの取り出しに着手したが、課題は山積している。2030年代に3号機から計画している本格的な取り出しにつなげるには、高線量下でデブリを安全に取り出すための装置や技術などが必要となる。
 東電が2019年に実施した2号機格納容器の内部調査では、デブリがあるとされる底部周辺で最大毎時7・6シーベルトの高線量が確認された。調査用のカメラが不具合を起こした例などがあり、放射線に強い取り出し装置の開発が求められる。

 政府と東電が廃炉完了を見据える2051年までに880トンと推定されるデブリ全てを取り出すには、単純計算で1日当たり90キロのペースで取り出す必要がある。遠隔で繊細に操作できる技術などが欠かせないが、開発できるか、先行きは不透明だ。東電は本格的な取り出しに向け、スケジュールや工法などを検討中だ。取り出したデブリの保管場所や処分方法も決まっていない。
 原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の玉川宏一理事は東電の安全管理について「今後は自らリスクを把握し、計画的に対応すべきだ」と指摘する。内堀雅雄知事は10日、「全社を挙げて、安全・安心が確実に担保される体制を構築してもらいたい」とのコメントを発表した。

 ■デブリ取り出し着手 「緊張感持ち着実に」 県民から切実な声 安全性の担保不安視も

 「緊張感を持って着実に進めて」。東京電力が福島第1原発2号機からの溶融核燃料(デブリ)の取り出し作業に着手した10日、県民からは切実な声が上がった。避難者や子育て中の県民は心から安心できる未来を願い、観光関係者は確実な前進を求めた。廃炉に向け最難関とされる工程に入り、世界の技術を結集して乗り越えるよう願う声も聞かれた。
 双葉町で暮らす町浜野行政区長の高倉伊助さん(68)は福島第1原発が立地する町の住民の一人として、デブリ取り出しの行方を注視している。今回の試験的取り出し着手を「廃炉に向けた一歩」と受け止める。一方、デブリの完全な取り出しには長い道のりを要する。「進捗(しんちょく)状況などの情報を丁寧に発信し、緊張感を持って作業してほしい」と注文した。

 双葉町からいわき市に避難している無職の60代女性は「安全性は本当に担保されるか不安だ」と表情を曇らせた。古里をはじめ双葉郡は復興に向けた動きが活発となり、人も戻りつつある。前回の中断を念頭に「同じようなことを繰り返したら信用を失う」と口調を強めた。
 南相馬市小高区の宮司西山典友さん(71)はデブリ取り出し着手を伝えるニュースを厳しい表情で見つめた。「なぜ、最初からミスなくできなかったのか…」

 デブリの取り出しは県民の暮らしや仕事に影響する。小学生の子ども2人を育てる石川町の会社経営和知勇希さん(38)は一日も早い廃炉完了が、子どもの明るい未来につながると信じている。「着実に進めて」と願った。
 会津若松市の飯盛山近くにある土産物販売・飲食店「会津幸泉小法師」はコロナ禍が明けた昨年以降、円安の影響も相まって、インバウンド(訪日客)需要が伸びている。今春の桜の開花時期には前年の4倍近い団体客を受け入れた。営業部長の古川英司さん(68)は「廃炉作業が順調であれば、訪日客の来県の安心材料になる。大きなトラブルなく続けてほしい」と求めた。
 本格的なデブリ取り出しを始めるには技術的な課題が山積する。福島市の自営業二瓶勝雄さん(76)は「トラブルを発生させないよう、焦らず壁を乗り越えてほしい。廃炉の完了に向け国内外の英知を結集し、技術発展を続けてもらいたい」と語った。
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