[2024_02_04_02]能登半島地震 〜海沿い景観一変〜 繰り返された大規模隆起 最大4メートル 新たな海岸段丘が出現(東京新聞2024年2月4日)
 
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能登半島地震 〜海沿い景観一変〜 繰り返された大規模隆起 最大4メートル 新たな海岸段丘が出現

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 石川県能登地方で起きたマグニチュード(M)7.6の能登半島地震では、半島北部沿岸の広い範囲で、地盤が隆起しました。実は、この地方で地盤が隆起するのは今回が初めてではありません。昔から繰り返し地震が起き、そのたびに海岸が隆起し、階段状の「海岸段丘」をつくってきたことが調査で明らかになっています。研究者は「これまで半島を形作ってきたタイプの地震が起き、新たな海岸段丘が形成された」と説明しています。 (榊原智康)

 ◆北高南低

 日本列島は、もともとユーラシア大陸の一部でした。約2000万〜1500万年前、この大陸の東端が裂けて日本列島が分離し、今の位置まで移動しました。その裂け目が日本海です。でも、そのときまだ能登半島は存在していませんでした。
 「なぜこんなに大きな地震が発生したのかを理解するには、地形、地質、地殻変動などを総合的に見ていく必要がある」と、東北大の遠田(とおだ)晋次教授(地震地質学)は訴えます。

 遠田教授は、輪島市から穴水町にかけて海岸線にほぼ垂直な方向で断面図をつくると「北側が高く、南側は低くなっている」と強調。半島は北から南に傾く地殻変動(傾動)をしながら、いくつかの地面のブロックに分かれて隆起してきたと解説します。
 能登半島北部の沿岸の海底には東西に複数の活断層があります。これらの断層は、岩盤が押し合うことで一方が乗り上げる形でずれる「逆断層型」です。陸側の地盤が海側の地盤に乗り上げるようにずれ動くため、能登半島がせり上がるように隆起してきたと考えられています。
 産業技術総合研究所地質調査総合センター(茨城県つくば市)の宍倉正展(ししくらまさのぶ)グループ長(古地震学)は「100万年以上前から繰り返し起こる地震によって隆起が累積して、半島自体が形成されたと考えられる」と話します。

 ◆過去最大

 能登半島地震では最大震度7を観測。震源は珠洲市の地下16キロの地点で、岩盤の破壊は約150キロに及びました。内陸型としては過去最大級の大きな地震でした。震源断層のずれの大きさから計算する「モーメントマグニチュード(Mw)」は7.5で、これまで国内最大級の内陸地震といわれ、死者約7300人を出した1891年の「濃尾地震」(Mw7.4)を上回っています。
 宍倉さんらのチームは地震発生後、輪島市西部の鹿磯(かいそ)漁港周辺を調査しました。漁港では、防潮堤の壁面に張り付いていたカキなどの位置から3.8〜3.9メートル隆起したことが判明。漁港周辺では、波の浸食によってでき、海面付近に広がる「波食棚」という平らな地形が3.6メートル隆起し、干上がっていました。一方、国土地理院の地球観測衛星「だいち2号」による観測でも、輪島市西部で最大4メートルの隆起を確認しています。
 大きな地震が起きると、地盤は隆起したり、沈降したりします。国土地理院によると、1923年の大正関東地震(関東大震災)では千葉県の房総半島で約2メートル隆起しました。今回は、その高さを上回り、国土地理院に観測記録が残る中では過去最大の隆起となりました。
 宍倉さんらは地震前から、能登半島北部沿岸を調べてきました。沿岸には大規模な海岸段丘が少なくとも3段あり、今回の隆起で段丘の4段目が形成されたとの見方を示します。
 これまでの3段の海岸段丘の隆起量は1〜3メートルでした。一方、2007年の能登半島地震(M6.9)でも約50センチの隆起を確認しましたが、地殻変動が起こった範囲は広域ではありませんでした。
 宍倉さんは、3段の海岸段丘をつくった地震は、今回の能登半島地震と同じようにM7を超えるような大規模なものだったと推測。一番上にある最も古い段丘は6000年前以降にできたとされ、「千〜数千年の間隔で、今回のような規模の地震が起きて地盤が隆起し、海岸段丘ができることが分かった。隆起の高さから考えれば、今回は6000年前以降で最大の隆起が起きた可能性がある」と話します。

 ◆長期評価

 政府の地震調査委員会は、114の主要活断層や6地域の海溝型地震などについて、地震の発生確率を予測する「長期評価」を発表しています。活断層については当初、内陸のものに限っていましたが、17年からは海底活断層も加えて調査しています。
 海底活断層で評価を終えたのは九州・中国地方北方沖のみで、能登半島沖は調査の途中でした。海底活断層は、内陸のものに比べて掘削調査が難しく、活動周期など予測に必要なデータを得にくいという課題があります。
 「海岸段丘の痕跡の調査が、海底活断層の長期評価に活用できる可能性がある」と宍倉さんは説きます。能登半島のように、地震によって隆起して海岸段丘がつくられている場所は国内にたくさんあるとし「住んでいる場所の過去の状況を知ることが、将来の備えにつながる」と呼びかけています。

<マグニチュード> 地震の規模を示す値で「M」の記号を使う。値が0.2大きい地震は約2倍、1.0大きいと約32倍、2.0大きいと約1000倍のエネルギーを持つ。計算手法の違いによって複数の種類がある。気象庁が地震発生後すぐに発表するのは「気象庁マグニチュード(Mj)」。地震計が捉えた地震波の最大振れ幅などから計算し、素早く地震の規模を推定できる特長があるが、M8を超える巨大地震では精度が低くなる。国際的に広く使われているのが「モーメントマグニチュード(Mw)」。震源断層の面積と動いた量から求めるため、地震規模をより正確に表すことができる。一方で、地震波形全体を詳細に分析する必要があり、発生直後に迅速に計算することが難しい。東日本大震災では速報値がMj7.9、確定値はMw9.0。
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