[2024_02_09_07]月の「標準時」とは? 地球より早く進む難題も 各国の宇宙機関、30年にも月の「全球測位衛星システム」構築を計画 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その528 島村英紀(地球物理学者)(島村英紀2024年2月9日)
 
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月の「標準時」とは? 地球より早く進む難題も 各国の宇宙機関、30年にも月の「全球測位衛星システム」構築を計画 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その528 島村英紀(地球物理学者)

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 日本も世界で5番目を目指して後を追っている。月面着陸を目指す「ムーンスナイパー」探査機を搭載したロケット「H2A」が2023年8月、打ち上げられた。
 月着陸機が12月25日に周回軌道に入ることに成功した。これで日本はロボット探査機を初めて南極に着陸させるという目標に一歩近付いた。
 現在の軌道では、着陸機は約6時間で月の周りを1周している。その後数週間かけて徐々に月に接近し、1月20日午前0時20分(日本時間)に着陸を試み、太陽電池が働かない上、天地がさかさまになって辛うじて着地に成功した。
 月面着陸はかくも難しい。19年にインドが打ち上げた「チャンドラヤーン2号」は月の軌道に入ることは成功したものの、着陸時はバラバラになって墜落して失敗した。23年「チャンドラヤーン3号」はインドにとって2度目の挑戦だった。
 23年8月にはロシアの47年ぶりの月面探査計画が失敗した。月面の南極に軟着陸を果たす予定だった無人月探査機「ルナ25号」は軌道を外れ、月面に激突してしまった。
 ところで月には標準的な時計がないことをご存じだろうか。
 各国の宇宙機関は、それぞれ独自の時間尺度を地球の「協定世界時(UTC)」にリンクさせて使っている。
 だが、この方法はあまり正確でなく、月の探査機はお互いの時刻を同期することができない。月との距離約40万キロ。その分だけ1秒あまり、電波が遅れる。
 月面の探査機が数えるほどしかない今ならいいかもしれないが、今後もっと数多くの並行した実験計画が同時に行われるようになれば、困ったことになる。
 科学雑誌に掲載された記事では、宇宙関係者の間で、月の標準時を定めようという動きがある。
 月の時間を定めるのは案外難しい。1秒の定義自体は月でも地球でも同じだ。だが特殊相対性理論によるなら、重力が強いところでは原子時計が遅くなる。
 月の重力は地球よりも弱いので、月の時計は地球の時計よりも速く進むことになる。そのために月の時計は24時間で約56マイクロ秒進んでしまう。
 こうした状況に対応するため、宇宙機関は30年にも月の「全球測位衛星システム(GNSS)」を構築しようと計画している。
 ESA(ヨーロッパ宇宙機関局)とNASA(米国航空宇宙局)は、手始めに、24年から地球の人工衛星から届く微弱な電波で、月面での観測器の位置を求める実験を行う予定である。
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