[2024_01_19_07]スイス・アルプス山脈で“プラスチックを食べる微生物”が発見 深刻さを増す世界的汚染、解決に向けての糸口に 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その527 島村英紀(地球物理学者)(島村英紀2024年1月19日)
 
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スイス・アルプス山脈で“プラスチックを食べる微生物”が発見 深刻さを増す世界的汚染、解決に向けての糸口に 「警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識」その527 島村英紀(地球物理学者)

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 海に広がるマイクロプラスチックが問題になっている。無限に細かくなって、海洋生物に取り込まれ、やがて人間の身体に蓄積していく恐ろしい鬼っ子だ。
 今日、毎年800万トンのプラスチックが海に流れ込んでいると推定されている。
 そうしたプラスチックは自然環境ではなかなか分解されず、たとえばペットボトルなら数百年もそのまま残る。
 深刻化するプラスチック汚染は、世界が直面する最大の環境問題の1つだ。
 ところが、スイスのアルプス山脈でプラスチックを食べる菌類が発見された。
 これはプラスチックを消化できる微生物だ。
 学術誌に掲載された研究によると、スイス・アルプスのグラウブエンデン地方で見つかった微生物は、PUR(ポリウレタン)、PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)、PLA(ポリラクチド)という3種類のプラスチックを消化できるという。
 PURはマットレスや体育館用シューズに、PBATとPLAは堆肥化可能なビニール袋や、マルチフィルム(園芸用フィルム)に含まれている。
 研究グループは、ヴァル・ラヴィラン渓谷(グラウブエンデン)の「ムオット・ダ・バルバ・パイダー」の頂上にプラスチックを埋めた。
 その後、その上に生育している生物の土壌サンプルを採取したところ、19種類の細菌株と15種類の真菌株が見つかった。
 このほかにも研究がある。別の研究者は世界数百カ所から集められた環境DNAサンプルを分析してみた。
 この調査では、一般的なプラスチックを分解できる可能性がある微生物酵素が、3万種類も見つかった。陸と海、両方の微生物から発見された。
 たとえば、陸上のプラスチックで多いのが、フタル酸系のプラスチック添加物だ。これはあらゆる処理に使われるもので、生産や廃棄の過程で流出しやすい。
 そのために陸上の環境DNAサンプルからは、こうした陸にたくさんあるプラスチックを分解できる酵素がより多く見つかっている。
 一方、海のサンプルからは、水深が深くなるほどにプラスチック分解酵素の量が増えることが明らかになっている。これは深いところほどマイクロプラスチックが多いことと関係しているようだ。
 世界中の陸と海の微生物がプラスチックを分解する能力を手に入れつつあるのだ。プラスチック汚染のレベルに比例して微生物が分解能力を持つようになるに違いないという。
 一般にプラスチック汚染がひどい地域ほど、微生物が持つプラスチック分解酵素が豊富である傾向が判明した。
 この発見は、深刻さを増す世界的なプラスチック汚染が、自然環境に与える影響の解決に向けての糸口にもなるはずだという。
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