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[2020_06_02_01]そこが聞きたい 地震学の課題 国立極地研名誉教授 神沼克伊氏 「想定外」強調は無責任(東奥日報2020年6月2日) | ![]() |
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1880年に日本地震学会が創設され、今年で140年。地震をいかに予知するかが最大の目標だったが、2011年の東日本大震災など大地震が起こるたびに、予知できなかったことを批判されてきた。今年3月に「あしたの地震学 日本地震学の歴史から『抗震力』へ」(青土社)を出版した神田克伊・国立極地研究所名誉教授(83)に、地震学の課題を聞いた。【聞き手・斎藤良太、写真も】
----著書では、日本の地震研究史を振り返り、地震学者の姿勢を痛烈に批判しています。 ◆地震学者たちからは大戦後、何度も「大地震発生説」が発表され、メディアにも取り上げられ物議を醸してきました。しかし予知、予測は一度も当たっていない。この事実を明らかにしておきたいと思いました。学者と市民とでは、同じ情報でも受け取り方が異なるのに、一部の学者は違いにつけ込んで、自己顕示欲の手段として発表しているように見えます。 被害が出ない小さな地震はたびたび起きており、大きさを考えなければ、「起こる」と言えば必ず(予知は)当たります。よく「大地震が切迫している」と言われますが、地球の寿命に置き換えれば2、3秒のずれでも、人間の場合は30〜50年、場合によっては100年になります。人間の感覚では役に立ちません。一般の方は、そうした違いを理解した上で学者の発言を聞いてほしいと思います。 ----東日本大震災を経て、政府も学会も予知は困難という立場に変わりました。 ◆今回の執筆にあたり明治以降の地震学史を振り返りましたが、予知にほとんど進歩がないことに私自身もがくぜんとしました。 同じ地球物理学の分野の気象学は、飛躍的な進歩を遂げています。地上の気圧や気温、風向きなどを入力すれば数式によって12時間、24時間先の天気図を掃けるので、未来の天気を予報することができます。しかし地震学では、地下のひずみなどの観測データがゼロに近く、未来予測は不可能です。 医学の世界ではMRI(磁気共鳴画像化装置)などで体の中の状態を確認できますが、地震学はいまだに、聴診器を胸に当て腰をボンボンと打診している状態です。 ----マグニチュード(M)9に見舞われた東日本大震災以降、地震や火山について最悪の事態を想定し備える風潮を「M9シンドローム」と呼んでいますね。 ◆1995年の阪神大震災以降、多くの地震学者は南海トラフ で「巨大地震が切迫」と繰り返し主張しました。日ごろの.地震活動を見た感じからの発言のようでしたが、行政やメディアを含め大流行した。ところが南海トラフで地震が起きずに10年以上たった後、予想もしなかった三陸沖で超巨大地震が起きました。 すると「切迫」を主張していた学者は、「想定外」という言葉を使い始めました。地震でも火山でも、「明日にも起こりかねない」と連発しておけば、「想定外」と言わずに済み、責任を免れると考え始めたのではないでしょうか。 今も一部の研究者やメディアは、一般住民に関心を持たせようと「超巨大地震が起これば」と強調する傾向があります。しかしかえって住民はマンネリズムに陥り、危ないと言われても対策を怠るようになることを危惧しています。 ----将来起こる地震に関する情報が氾濫する中で、市民はどう備えればいいのでしょうか。 ◆大地震に遭遇した時に生き延びる能力「抗震力」を個々人が身につけることを私は提唱しています。M9の地震の方がM8より揺れの時間は長く全体の被害は大きいですが、取るべき対策は同じです。家屋を震度7の地震に耐える構造にして、屋内の家具が転倒しないよう固定しておけば、家の中で命を落とすことはない。海の近くに住む人は、どこへ逃げるかを普段から考えておく。当たり前のことかもしれませんが、考えておくだけで費用はかからない。究極の地震対策になると思います。 神沼氏が「抗震力」を説く根底には、「1000年に1度の巨大地震」ばかりに気を取られ、数十年に1度の大地震への対策がおろそかになることへの危機感がある。地震大国で生きる以上、規模の大小を問わずいつか必ず地震が起こると考えて備えるしかない。 南海トラフ 静岡県沖の駿河湾から宮崎県沖の日向灘まで延びる、帯状の海底地形(トラフ)。日本列島のある陸側のプレート(岩板)の下に海側のプレートが引きずり込まれており、蓄積したひずみが解放されプレートが跳ね上がると大地震(南海トラフ地震)が発生し、大津波を引き起こす。 かみぬま・かつただ 1937年神奈川県生まれ。東京大大学院修了。同大地震研究所を経て74年から国立極地研究所。南極に15回赴き地震や火山を研究した。2001年に定年退官。南極には「カミヌマ」を冠した地名が2カ所ある。 |
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KEY_WORD:地震学_:日本地震学会:HIGASHINIHON_:国立極地研究所:大地震発生説:HANSHIN_:南海トラフ:抗震力: | ![]() |
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